誓いの紋章(シェリル視点)
大魔王様とメルト様が墜落した際は焦りました。
思わずローレライを締め上げ、救出に向かわせる程に……。
そして、投影の魔法で救出状況をじっと静観。
海上にお二人の顔が現れた際には、安堵で腰が砕けた程です……。
お二人の運ばれる姿を眺めていると、ローレライが問い掛けて来ます。
「シェリルも熱くなる事あんだね~。いつも冷めてる印象なのにさ~」
見ればローレライが、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
私の慌てふためく姿が、彼女にとっては面白かったみたいですね。
私は床に座ったままの姿で、いつも通りに淡々と答える。
「それは当然の事です。大魔王様は、この魔王国に必要なお方ですので」
「確かに凄い強さみたいだね~。でも、あの慌て方はそれだけかな~?」
ローレライの頭の中は、いつだってピンク色です。
今のこの状況でも、私から色恋の話を引き出したいのでしょう。
そして、私としても今のローレライは非常に不快です。
話をすぐに終わらせる為に、私はきっぱりと宣言する。
「ええ、私は大魔王様に惚れておりますよ。望まれれば、何だって致します」
「うわぉ! あのシェリルがっ? 大魔王様ってばイケメンだもんね~!」
目をキラキラ輝かせ、楽しそうに笑うローレライ。
私の口から望む言葉を引き出せ、彼女もご満悦みたいです。
しかし、不意にローレライの目の色が変わる。
すっと目を細めて、怪しげな視線で映像の大魔王様を見つめる。
「本当に良い男だよね……。全て投げ捨て、奪ってしまいたい程に……」
どうやら、ローレライの悪い癖が顔を出しましたね。
これまで多くの魔族を泣かせた『海の女帝』としての顔が。
望む物は全て奪って来た、海賊としてのもう一面。
いかなる手段を使おうとも、目的を達してきた残忍な顔が。
なので私は目を細め、ローレライを睨みつける。
一歩も引かない覚悟で、彼女に対して啖呵を切る。
「手を出せば、貴女を潰します。私の全てを用い、大魔王様は守り通します」
私の言葉に、ローレライは目を大きく見開く。
そして、面白そうに私へと薄い笑みを向ける。
しかし、それもほんの一瞬の出来事。
ローレライはやめやめと、手を振って私に告げる。
「ガチのシェリルとはやり合わないよ~。勝てない勝負はしない主義なのよね~」
玉座の上でやる気なさげに、ダレる姿を見せる。
そして、腑抜けた表情で大魔王様達の映像に視線を向ける。
どうやら、今回はローレライの方が引いてくれたみたいです。
私達と全面戦争をしてまで、手を出す程とは判断しなかった様ですね。
しかし、気まぐれな彼女の事です。
いつ気が変わるかと思うと、安心も出来ないのですが……。
――と、わずかに気が緩んだタイミングで声が届いた。
『感動した! シェリルちゃんには、『誓いの紋章』をプレゼントするよ!』
「「え……?」」
私とローレライの声がハモる。
天からの謎の声に対し、まったく理解が追い付かなかった。
そして、次の瞬間に私の腹部が発光する。
何やら熱を持った感覚に、私は思わず顔をしかめる。
「つっ……! 今のは一体……?」
私は自らの下腹部に手を添えて撫でる。
熱は残っているが、痛みは特に感じなかった。
何だったのかと首を傾げると、ローレライがぽつりと呟いた。
「い、いま……。『誓いの紋章』って……」
見ればローレライは、真っ青な顔で震えていた。
そして、慌てた様子で私の元へと駆け寄って来る。
何事かと驚いていると、その手が私のスカートを捲り上げた。
「ち、ちょっと……! 何をやっているのですか……?!」
「いいから見せなさい! 大変な事になってるかもっ!」
真剣な眼差しで睨むローレライ。
ふざけている様子は無く、その目には恐怖すら滲んでいた。
その眼差しを見て、私は抵抗を止める。
私はローレライと共に、むき出しになった腹部を確認した。
「これが『誓いの紋章』? 何やらハートの様な形状ですが……」
見た感じは可愛らしい印象のタトゥーでした。
効果は不明ですが、何らかの力を持つ紋章なのでしょう。
「ま、間違いない……。禁呪が、復活したなんて……」
真っ青どころか、白い顔で首を振るローレライ。
どうやら、彼女はこの紋章に心当たりがあるみたいです。
私は不穏な空気に喉を鳴らす。
すると、ローレライはゆっくりと説明を始める。
「この紋章を刻まれると、誓った相手以外に、異性は触れる事も出来なくなるの……」
「誓った相手……。今回の場合は、大魔王様という事でしょうか?」
話の流れからして、それ以外は考えにくい。
念の為に、後ほど大魔王様とスキンシップを計ってみましょう。
まあ、それだけなら問題無いのだろうか?
大魔王様と触れられないなら、大問題と言わざるを得なかったが……。
「そして、誓った相手には別の効果が……。女性の尊厳を失う、恐ろしい効果が……」
「女性の尊厳を失う? その効果とは一体……」
しかし、ローレライは口を貝のように閉じてしまう。
ただ静かに首を振り、悲し気な視線を私に向ける。
「え、ちょっと……。勿体ぶってないで、効果を教えて下さい!」
「私の口から言える訳が無いでしょ! け、汚らわしいっ……!」
汚らわしいって、どういう意味ですか!
そこまで言って、肝心の効果を教えないとか嘘でしょっ⁉
ローレライに口を割らせようと、私は必死に奮闘する。
しかし、どの様な手段を用いても、彼女は答えようとしなかった。
結局、私は訳のわからない紋章を持ち帰る事となる。
その効果が如何なる物か知り、驚愕するのはまだ先の事だった……。
第十章が終了となります。
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