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重破斬

 オレは指輪の制限を解除し、身が軽くなるのを感じていた。

 そして、この状態ならば、先程のより高威力が出せると確信する。


 海上から顔を出し、こちらを見上げるシーサーペント。

 奴に対して、オレは右手を差し向けた。


 そして、魔法を発動しようとし、不意に現れたウインドウに驚く。

 そのウインドウには、こう書かれていた。


「ドラグスレイブは、ギガブレイクへ昇格した……?」


 その文字を読み上げると同時に、魔法がひとりでに発動した。

 オレの全身を、金色の闇が包み込んで来たのだ。


 オレはまだ、魔法の発動を宣言していない。

 にも関わらず、この魔法は勝手に発動しようとしていた。


「……何が、起こっているっ?!」


 急激に力を吸い出される感覚があった。

 それと同時に、オレの中に何かが入り込もうとしていた。


 その感覚に、オレは背筋が凍る思いがした。

 良くわからないが、良くない何かが現れる予感があった。


「ユウスケ、どうしたと言うんだ……!」


 背中からオレを抱くメルトが、焦った声を出していた。

 同じく金色の闇に触れる彼女も、この力が不味い物だと感じたのだろう。


 しかし、オレはそれに答える事が出来ない。

 奪われそうになる意識を、何とか必死に繋ぎ止める。


「くそがっ……! オレの中に、入ろうとするなぁぁぁ……!!!」


 不幸中の幸いと言うべきなのだろうか。

 金色の闇が力を展開し、水の柱は全て弾き飛ばしていた。


 一時的にシーサーペントの相手はせずに済みそうだ。

 もっとも、こちらの相手も、それ以上のヤバさなのだが……。


「た、耐えろ、ユウスケ! それは、暴走させると不味い気がするぞ!」


「ああ、わかっている! だが、オレの力でこれは、どうにもならん!」


 何とか抗ってはいるが、耐えられるのも時間の問題だ。

 ジワジワとだが、オレの中に何者かが入り続けているのだ。


 これは流石に不味いとオレは焦る。

 そんなオレの耳に、ふっと声が届いた。


『ゆう君! 接続を解除するから、少し待ってね!』


「この声は、女神マサーコ様……か……?」


 焦った声ではあったが、女神マサーコ様が助けてくれるみたいだ。

 オレは額に脂汗を流しつつも、内心は安堵に満たされていた。


 そして、程なくして何者かの浸食が治まる。

 オレの中ら少しずつだが、力が引いて行くのを感じる。


 どうにかなったと胸を撫で下ろすと、再び声が耳へと届く。


『もう大丈夫だよ! あの御方には、お帰り頂いたからね!』


「あの御方、とは……?」


 しかし、オレの問いには答えが返ってこなかった。

 待てども何の反応も無く、あちらかの交信は既に終わったらしい。


 消化不良な感はあるが仕方あるまい。

 最悪の事態が避けれただけでも、女神マサーコ様へ感謝せねばな。


「……ん? そういえば、シーサーペントは?」


 海上を探すが、そこにシーサーペントの姿が見当たらない。

 あれ程の巨体を持つ大海獣が、音も無く姿を消していた。


 だが、理由は何となく察しが付く。

 あのヤバイ気配を感じとり、流石の大海獣も逃げ出したのだと。


「さて、想定外もあったが、目的は達することが……」


 背後へと視線を送ると、涙目のメルトと目が合った。

 彼女は真っ赤な顔をして、プルプルと身を震わせていた。


 あの恐ろしい存在に恐怖したのだろうか?

 そう思ったオレは、同時にふと気付いてしまった……。


「あ、まさか……」


 背中にジワジワと広がる温かな何か。

 背中に張り付くローブの感触に、オレは状況を即座に察した。


 オレはさっと視線を逸らし、メルトに対してポツリと呟く。


「あ、安心しろ……。オレは何も、気付いていない……」


 しかし、オレの言葉は逆効果だったらしい。

 メルトは腕に力を込めて、オレの胸を締め上げる。


 そして、メルトはオレに対し、こう宣言した。


「いいか? 私は羽の制御で魔力を使い果たした。そういう事だ」


「何だと……? いや、まさか……」


 その言葉を聞き、オレはメルトの考えを理解した。

 彼女はこのまま、証拠隠滅を図ろうとしているのだと。


 その考えに至ったオレは、顔色を変えて説得を試みる。


「ま、待つんだ! 早まった真似はよせ! 今ならまだ、他の手だって……!」


「ああ、もうちからがのこっていないなー……」


 メルトが棒読みで告げると、背中の羽が通常サイズへと縮小した。

 それと同時に、オレ達二人はフリーフォールを開始する。


 飛ぶことを放棄したメルト。

 しかし、その腕だけは、決して逃さないとガッチリ締め上げている。


 パラシュートの無いスカイダイビングである。

 オレ達は錐揉みしながら、海へ向かって真っすぐに突っ込んでいく。


「や、やめろぉぉぉ……!!!」


 しかし、叫びも空しく、水面へ叩き付けられるオレ達。

 『魔王の鎧』の重みで、どこまでも海中へと沈んでいく。


 だが既にこの時のオレは、落下の恐怖で気を失っていた……。

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