竜破斬
メルトに抱きか抱えられ、今のオレは海上を飛んでいた。
飛行時は魔力で羽が肥大化し、速度も飛行機並みに出るそうだ。
しかし、今は速度を必要とする状況では無い。
かなり上空をホバリングし、オレ達は大海獣を見下ろしていた。
なお、魔王の鎧はメルトが身に着け、オレは黒のローブ姿だ。
万が一があってはいけないので、メルトの安全を優先させた。
これは絶対条件とし、何とかシェリルにも納得して貰った。
何故か皆からは、呆れる様な視線を向けられたが……。
「それにしても、かなりデカいな……」
「ああ、初めて見るが本当にデカいな」
大海蛇と言う事で、新幹線程のサイズを想像していたのだ。
しかし、実物は超高層ビルが、連なっている様なデカさだった。
あれでは本当に、怪獣映画に出て来る大怪獣ではないか。
あれに接近戦を挑もうとしていた等、正気を疑われても仕方がないレベルだ。
「では、手はず通りに魔法で威嚇してみるぞ」
「ああ、一撃で逃げてくれれば良いのだがな」
今の言葉通り、今回の作戦はシーサーペントの撃破ではない。
奴を撃退して、元の縄張りへと追い返す事が目的である。
そもそもが、アレに本気で戦って勝てるかも不明なのだ。
オレが本気で戦えば、海への影響の甚大だとも懸念された。
更には倒す事による海域への影響も不明である。
主が居無くなった事が無く、一帯が荒れる事も懸念されてた。
その様な事情もあり、まずは威嚇して逃げ出さないか様子を見る。
そして、威嚇として選択する魔法が、この黒魔法であった。
「――ドラグ・スレイブ!」
この魔法は、かつて赤眼の魔王が使用したと言われる黒魔法。
相手を精神面から爆破すると言う恐るべき効果を持つ。
この黒魔法であれば、高い防御力を持とうと意味を成さない。
ドラゴンすら一撃で落とした事から、この名が付いたと言われている。
そして、魔法の発動に合わせ、オレの体を赤黒い闇が包む。
その魔力は右手へと集約して行き、やがてふっと消え去った。
「……やったか?」
耳元で囁く、メルトの呟きが耳に届く。
確かこれは、有名なフラグとかいう奴では無かっただろうか?
そして、良くわからない疑念は現実の物となる。
シーサーペントを包むバリアが現れ、奴との中間で爆発が起きた。
「くうっ、凄まじい衝撃だな……!」
爆発の余波により、メルトが姿勢制御に苦戦していた。
それ程の爆発にも関わらず、シーサーペントにダメージは見られなかった。
それどころか、突然の攻撃にあちらも激怒しているた。
水の柱を噴出させ、こちらに対して反撃を行って来たのだ。
「捕まれば一巻の終わりだ! 私は回避に専念するからな!」
「ああ、そちらは頼む! こちらはもう一度攻撃してみる!」
水の柱は触手の様に、器用に曲がりくねった攻撃を行う。
それらをメルトは、高速移動で辛うじて回避し続ける。
水の柱も数が多く、メルトの表情に余裕が無い。
オレも凄まじいGに揺さぶられ、別の意味で余裕が無い……。
焦りそうな気持を抑え、オレは再び魔法を発動させる。
「――ドラグ・スレイブ!」
闇魔法が発動したが、結果としては先程と同じ。
奴との中間距離にバリアが張られ、届く事無く爆発が起きた。
「いや、同じではない……?」
奴もこちらの攻撃に警戒しているのだろう。
先程と違って、バリアが二重に張られているのが見えたのだ。
つまり、何とかバリアを破っても、もう一つのバリアに防がれる。
多少火力を上げた程度では、奴に攻撃は届かないという事である。
「くそっ、化け物め……! よもや、これ程とは……!」
必死の回避を続けるメルト。
それに対して、悠然とこちらを見上げるシーサーペント。
作戦の第一段階は失敗と見なすべきだろう。
ならば、作戦を第二段階へ進めなければなるまい。
「仕方がない。やるぞ、メルト」
「ああ、早くやってくれ……!」
メルトの返事にオレは頷く。
そして、オレは右手の指輪を、アイテムボックスへ格納した。
そう、ここからは、オレの制限を解除する。
Lv999の全ステータスを解放し、奴に対して攻撃を仕掛けるのだ。
「さあ、第二回戦を始めるとしよう……」
未だにジッと、こちらを見上げるシーサーペント。
奴に向かって、オレはニヤリと笑って見せた。




