シーサーペント
ローレライは玉座へ座り直し、表情を引き締め直す。
そして、オレ達に対して状況を説明し始めた。
「今回、入り江に居座っているのはシーサーペント。そのキングクラスなのよ」
「キングクラスのシーサーペント……。もはや、上位ドラゴンと考えるべきだな」
腕を組んで唸りを上げるメルト。
その姿から、相当難しい相手だと思われる。
しかし、オレにはその名ではピンと来ない。
そんなオレに対し、シェリルが補足説明を行ってくれる。
「シーサーペントとは大海蛇の事です。通常サイズでも、人を丸呑みにする程の大きさとなります」
「キングクラスはヤバイのよね~。この入り江を取り囲む位の大きさは、想定しとくべきかもね~」
ヤバイと言う割には、ローレライの口調はのんびりしている。
オレ達が引き受けた為、もはや彼女には他人事なのかもしれない。
とはいえ、ローレライの説明は衝撃的である。
この入り江の大きさは、それこそ東京ドーム何個分という単位の広さなのだ。
「それ程の巨体となると、どう戦うべきだろう? まずは船で近づくべきか?」
「船で近付けば、波で沈められます。或いは、船ごと一飲みにされるかと……」
オレの問いに、渋い顔でシェリルが答える。
船での接近は難しいという事らしい。
ならばとオレは、別の案を口にする。
「ならば、陸から砲撃でもするか? 高火力な遠距離攻撃も出来なくは無いぞ?」
「キングクラスには難しいな。奴等は魔法もスキルも使うから、まず防がれるぞ」
メルトが淡々とした口調で答える。
同意を示す様に、シェリルの顔も曇っている。
船での接近も、陸からの遠距離も無理と来た。
ならば他に残された手段と言えば……。
「人魚族の魔法ではどうにかならんか? オレを水中でも呼吸可能にする等だが」
「出来なくはないけどおススメできないよ~。水中は大海獣の支配領域だしね~」
ローレライは呆れた表情でオレを見つめていた。
どうにも彼女的には、かなり的外れは事を尋ねた感じらしい。
オレが反応に困っていると、すかさずシェリルが補足を行う。
「大海獣は水を支配する能力を有しております。海流操作等を行いますので、水中ではまともに動く事も出来ないでしょう」
「そういう事か。ならば、水中で戦うのは避けるべきだな」
オレの言葉にシェリルが静かに頷いた。
ローレライもウンウン頷いており、反対意見は無さそうだ。
だが、そうなると手詰まりではないだろうか?
接近も出来ず、遠距離攻撃も効かずにどう攻略すると言うのだ?
オレは静かにシェリルを見つめる。
賢者の言葉を待っていると、彼女はほうっと息を吐いた。
「正直、大海獣を倒した伝承は残っておりません。同等の力を持つ、ドラゴンならば別ですが……」
「そうなのよね~。ドラゴンなら地面に落とせば良いけど、水中の大海獣は手に負えないのよね~」
空を飛ぶドラゴンならば、まだ手の打ちようがある。
しかし、水中の大海獣では、地上へ引きずり上げる術がない。
シェリル程の賢者をもってしても打つ手なしか。
安請け合いをしたが、これはかなり難しい案件だったみたいだ。
そして、オレ達が腕を組んで悩んでいると、呆れた声が部屋に響く。
「何を悩む必要がある。陸も海も駄目なら、後は空しか残っておらんだろうが」
「空と言うと、まさか……? いえ、メルト様との相性を考えるとそれは……」
シェリルの呟きで、オレにもその意図が理解出来た。
すっかり忘れていたが、竜人族のメルトは翼を持っている。
メルトが翼で飛び、空から攻撃する気なのだろう。
しかし、メルトとの相性とは何の事だろうか?
オレが内心で首を傾げると、メルトがふっと笑った。
「私の得意とする魔法は火属性。それでは、大海獣の防御を破る事は出来んだろうな」
「ええ、メルト様の得意属性が雷でしたら、まだ可能性はあったと思うのですが……」
言い難そうに、シェリルは言葉を濁す。
しかし、メルトは首を振って、ニヤリと笑みを浮かべる。
「だが、攻撃するのがユウスケならどうだ? 移動砲台として、力を振るって貰えば?」
「――つまり、メルト様はユウスケ様の翼に? それならば、確かに可能性はあります」
何やら二人の間で、意見が纏まったらしい。
メルトとシェリルは、揃ってオレへと視線を向ける。
「……ふむ、方向性は決まったらしいな。ならば、具体的手段の検討を始めるとしよう」
オレに否などあるはずもない。
シェリルが大丈夫というなら、それに従うのみである。
空でも飛ぶし、魔法の砲台にでもなってみせよう。
ただオレとしては、魔王48の殺人技で片付く事を願うばかりだ……。




