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協力要請

 長かったシェリルの説教も終わりを迎えた。

 そして、オレ達が訪れた趣旨を、シェリルから改めて説明する。


 それに対してローレライは、ぐったりした様子でオレに応えた。


「おけまる~。人族と仲良くなれるなんて、超ハッピーだしね~」


「貴女はまた、人族の男漁りでも考えているのでしょうけどね?」


 ぎくりとした表情を浮かべ、ローレライは視線を逸らす。

 そして、乾いた笑いを漏らし、シェリルをチラチラ見つめる。


「やだな~、勘繰りすぎじゃん? でも、メニュー増えると嬉しいかも~」


 ローレライが、何やらシェリルの顔色を伺っている。

 それに対して、シェリルは疲れた様子で溜息を吐く。


 そして、頭を抑えるシェリルに代わり、メルトがオレに告げる。


「シェリルは人魚族へ、男娼派遣業を営んでいてな。ローレライはお得意様なのだ」


「そんな事まで、やっているのか……?」


 男娼とはその名の如く、男性の娼婦という事だ。

 つまり、体を売る男性を集めた、風俗業を行っているという事である。


 余りの衝撃的事実に、オレはシェリルを凝視してしまう。

 すると、シェリルは涙目になりながら、オレへと縋りついて来る。


「ち、違うのです! 人魚族の誘拐を止めさせろと、国中からクレームが届いたのです! ローレライと交渉した結果、希望者を斡旋する形で平和的解決を図っただけなのです!」


「いや~、自分で良い男を探す必要ないからね~。お金払って、紹介して貰う方が早いっしょ?」


 驚くほどに必死な表情のシェリル。

 それに対してローレライの、何とあっけらかんとした態度なのか……。


 オレはシェリルを落ち着けるべく、優しく肩を叩いてやる。


「わかっているとも。シェリルはいつでもベストを尽くしている。これも最善を考えた結果なのだろう?」


「だ、大魔王様~!」


 感極まった様子で胸に飛び込むシェリル。

 流石のオレも、空気を読んでこれは受け止める事にした。


 恐々と様子を確認するが、メルトは特に何も言ってこない。

 しかめっ面ではあるが、仕方が無いと黙認する事にしたみたいだ。


「いいな~。大魔王様なら、全財産を貢いでも良いんだけどな~」


 羨ましそうな視線で、空気を読まない発言をするローレライ。

 そもそも全財産を貢ぐとか、オレはホストでも何でも無いのだが?


 内心でモヤモヤするオレに対し、ローレライは大きな溜息と共に呟く。


「黒目黒髪で寡黙な雰囲気。更には深い闇を抱えた眼差し。ミステリアスで、これぞ理想の魔族って感じなのにな~」


「言いたい事はわかる。だが、ユウスケは私の婚約者だ。お前にはやらんからな?」


 警戒する様に、メルトが鋭い眼差しを向ける。

 しかし、ローレライは未練たらたらの視線をオレに向ける。


 というか、陰険と言われ続けたこのオレが、魔族にとっての理想だと?

 いや、それ以前にオレは、人間であって魔族では無い訳だが……。


 二人の会話に戸惑っていると、ローレライがパッと表情を切り替えた。


「あ、そだ! 大魔王様って超強いんだよね? なら、一つお願いを聞いてくれない?」


「オレにお願いだと……?」


 強さを求めているみたいなので、先程の男娼とは別件と思われる。

 しかし、このタイミングで何を願うと言うのだろうか?


 オレが言葉を待っていると、ローレライは困った表情で腕を組む。


「入り江の入り口に大海獣が居座っちゃって~。外に出れなくて困ってるんだよね~」


「大海獣が居座っているだと? 奴等は、自らの縄張りから出る事はないはずだが?」


 ギロリと睨みを聞かせるメルト。

 ローレライは視線を逸らし、何やら下手な口笛を吹きだした。


 そんなローレライの態度に、シェリルがピクリと反応した。

 オレの胸からそっと離れ、鋭い視線をローレライへと向ける。


「……貴女、大海獣の縄張りに踏み込みましたね?」


「あはは~。最近ちょっと、注込みすぎてさ~……」


 どうやら、男娼への出費が大きくなり過ぎたらしい。

 その穴埋めをする為、危険な領域へと踏み込んでしまったのだろう。


 これは完全にローレライの落ち度である。

 青筋を立てるシェリルを、オレとしても止める気になれない。



 ――しかし、ローレライはバッと玉座から飛び降りた。



「お願いします、大魔王様! みんな困ってるし、助けて下さい! 今回ばかりは、私も反省してますんで!」


 魚人族の女王であるローレライ。

 彼女は床に額を付けて、オレへと必死に懇願していた。


 そこまでされては、オレとしても無下にするのは心苦しい。

 シェリルに視線を向けると、彼女は苦々し気に息を吐いた。


「……まあ、仕方がないでしょう。このままでは、魚人族の経済が回らなくなります。供給が止まると、困る品々も御座いますので」


「そ、それじゃあ、助けて頂けるんでしょうか!」


 バッと顔を上げて、キラキラした眼差しをオレへと向ける。

 そんなローレライの態度に、オレは苦笑を浮かべて頷いた。


「ああ、そうだな。それではまず、詳しい状況から聞くとしよう」


 オレの言葉を聞いて、飛び起きたローレライが万歳をする。

 そして、両隣で見守っていた女官達も、ほっとした表情を浮かべていた。


 どうやら、今回の魚人領では、オレの力が必要らしい。

 勇者にして大魔王である、このオレの強大な力が……。

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