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ローレライ

 海上に浮かぶ巨大なコテージ。

 そこが、魚人族の有する来客対応用の宮殿らしい。


 そして、中に入るとその意味合いが理解出来た。

 この神殿は4つの建物が集合した形式を取っている為だ。


 まずは正面の来客受付用の建物。

 こちらには警備の半魚人マーマンが常駐しているそうだ。


 次に左右に建てられた来客用の宿泊施設。

 右がV.I.P用の施設で、左が一般客用と分かれているらしい。


 そして、受付から進んだ奥に本殿が存在する。

 そここそが、ローレライの住まう女王の別宅らしいのだ。


「うーむ、これはまた……」


 半魚人マーマンに案内され、本殿へと踏み込む。

 そして、その作りにオレは思わず呻りを上げた。


 広々とした空間を持ち、シンプルながら局所に細工も施されている。

 木造であるこの建築物は、オレから見えると大きな神社を思わせた。


 宮殿と言えば石造りをイメージするが、ここは古い日本の宮殿が近い。

 まあ、クラゲの上と考えれば、重い石材は使えないとも考えらえるな。


 オレが感心しながら進むと、奥の人物が徐々に見えて来た。

 玉座らしき場所に、一人の人物が待ち構えていたのだ。


 青く長い髪を持つ、二十台後半の女性。

 ゆったりした羽衣を纏う姿から、何故だか竜宮城を思い出してしまう。


 ローレライという名から、乙姫様とは関係ないとは思うのだが……。


「「ローレライ様! 大魔王様がお見えになられました!」」


 玉座の左右には、それぞれ女性が立っていた。

 ゆったりとした衣を纏う、女官と思われる者達である。


 その声に応じ、宮殿の主は小さく頷く。

 そして、気だるげな瞳をオレ達に対して向けて来た。


「ようこそ参られた、大魔王様。我が名はローレライ。魚人達の支配者である」


 玉座に腰掛け、右ひじは肘掛に掛けた状態。

 何ともだるそうな状態のまま、ローレライは挨拶を行って来た。


 その態度に思う所はあるが、大人の対応で我慢すべきだろう。

 相手の態度がどうであろうと、オレ自身は礼を欠くべきでないと思う。


 オレは頭から『魔王の兜』をそっと外す。

 何故だか、メルトに被っていろと言われていた兜を。


「お初にお目にかかる。オレの名は中野雄介。今日は時間を頂き感謝する」


 オレの言葉を聞いて、ローレライは目を丸くしていた。

 左右の女官達も、同様の驚きを示していた。


 その様子に、オレは思わず首を傾げる。

 オレは何かおかしな事を言っただろうかと思い。


 そして、ローレライが唐突に、想定外の行動を取った。


「え、素敵……。私の物になって!」


 玉座から立ち上がり、突然始まるローレライの告白。

 彼女は両手をこちらに向け、上気した顔でオレを見ていた。


 それと同時に、オレの周囲に何やら淀んだ空気が絡みつく。

 何となく不快なそれは、手をパタパタ振って散らしておいた。


「え、うそ……」


 再び目を丸く見開き、口をポカンと開くローレライ。

 左右の女官達も、同じく同様の反応を示していた。


 状況がわからず、オレは隣のシェリルに視線を送る。

 すると、珍しく彼女は青筋を立て、怒りの籠った声を漏らす。


「ローレライ……。それはもう、止めるという約束でしたよね?」


「あ、いや……。久々に、体が勝手に動いちゃったというか……」


 ローレライは気まずそうに視線を逸らす。

 そして、すごすごと玉座へと戻って行く。


 そして、隣のメルトからも、盛大な溜息が漏れた。


「だから、兜を被っておけと言ったのに……」


「そういう意図とは、思わなかったのだ……」


 いきなりの告白など、これまでされた事がない。

 こんな状況を想定しろと言う方が無茶ではないか?


 オレが内心で唸っていると、ローレライも唸り始める。

 そして、彼女はシェリルに対して問い掛ける。


「でも、どうして私の『魅了チャーム』が効かないの? 何か、パタパタしてたんですけど……」


「大魔王様はメルト様をも超える強者です。魔力量も貴女より遥かに高いからですよ」


 シェリルは平然と答える。

 しかし、ローレライは眉を寄せて不満げに尋ねる。


「でも、所詮は人間でしょ? 魔法使いでも、人魚族を超えられるはずないじゃん」


「大魔王様は勇者であり、女神マサーコ様の使者です。全ての能力で、魔族すらも超越しております」


 人間では人魚の魔力を超えられないのだろうか?

 ローレライの話を聞いて、ふと疑問が沸き上がる。


 そして、隣のメルトを見ると、何やらドヤ顔でオレを見ていた。


「竜人族なら、同じレベルでも人魚族を超えるぞ。私はLv85の竜人族だから、ユウスケ以外に勝てる者はおらんだろうな」


 何やら竜人族の強さをアピールしているみたいだ。

 レベルが同じでも、種族によって能力が違うのだろうな。


 嬉しそうに能力を自慢するメルト。

 子供みたいで可愛いなと思い、その頭を優しく撫でておく。


 嬉しそうに笑みを浮かべ、身を寄せるメルト。

 その光景を見て、ローレライが再び玉座から立ち上がる。


「あ~、メルト様ずるい~! 私もやって~! 今のやってよ~!」


「お黙りなさい、ローレライ! 先程の件、まだ許してませんよ!」


 何やら場が騒がしくなってきたな。

 叱りつけるシェリルを、オレは唯ぼんやりと眺め続けた。

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