表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/131

人魚の浜

 魚人達が住まうという魚人族の拠点。

 その拠点がある一帯を人魚の浜と呼ぶらしい。


 そして、到着して驚いたのがその丸い形状である。

 浜辺と知らなければ、湖と勘違いしそうな作りをしていた。


 そして、到着した浜辺からは一本のつり橋が掛けられいる。

 その吊り橋の先には、小さな島が存在していた。


「孤島の宮殿と聞いたが、あれは少し違う気がする……」


 その島はゆらゆらと揺れていた。

 どうも、島と言っても浮島みたいなのだ。


 更には見える建築物も木造の平屋である。

 どちらかといえば、リゾート地の海上コテージを連想させる。


 オレは馬車を降りて、その光景を眺めていた。

 すると、シェリルがオレとメルトの先導を務める。


「ここからは歩いて頂きます。馬車では吊り橋を渡れませんので」


「ああ、確かにあれば無理だな。まあ、気長に歩くとするか……」


 木製のつり橋は簡易的な物で、馬車の重みに耐えれると思えない。

 そして、非常に距離は長く、歩くと数分で着く距離では無かった。


 オレは自らの纏う漆黒の鎧に目を向ける。

 重くて疲れるとは思わないが、足を踏み外すと大変な事になりそうだ。


 オレは気を引き締めて、シェリルに続いて吊り橋へと足を掛けた。

 なお、ミニメルト達は海に落ちると危険なので、馬車でお留守番としている。


「どうやら、警備の者が気付いたようです。ローレライもすぐやって来るでしょう」


 言われてオレは、シェリルの視線の先を見る。

 すると、魚の頭が水中から出ており、敬礼をして水中へと消えて行った。


 あれが魚人族の半魚人マーマンなのだろう。

 デカい魚が顔を出しており、正直かなりビクリとさせられた……。


 そして、ドキドキする胸を抑えていると、更なる人物が顔を出す。

 今度は女子高生程の若い女性が、十名程の人数で海上に顔を出している。


「「「ようこそ~! 大魔王様~!!!」」」


 出迎えの者達なのか、大声で手を振り歓迎を受ける。

 どうやら、人魚族はオレに対しても友好的な態度みたいだ。


 オレは軽くて手を掲げ、軽く笑みを返しておく。

 大声で返事をするのは、オレのキャラでは無いだろうからな。


 すると、出迎えの者達は黄色い声ではしゃぎだした。


「きゃあ~! かっこいい~!」


「ヤバイ! 恋に落ちちゃう!」


 何やら、本当に女子高生の様なノリだな。

 彼女達はワイワイと楽しそうに盛り上がっていた。


 そして、その声を聞きつけたのだろうか?

 再び十名程の若い人魚が海上に顔を出して来た。


「あ! もう到着してたんだ!」


「やばっ! 出遅れたじゃん!」


 見ていると、少しずつだが更に人数が増えている。

 しかも、彼女達を守る為か、遠巻きに魚顔も生えて来た。


 海面に浮かぶ多数の頭に、何とも言えないシュールさを感じてしまう。


「想定外の光景だな。一応、歓迎されているという事なのか……?」


 オレは吊り橋を歩きながら、彼女達へと手を振り返す。

 オレの移動に合わせて、彼女達も追い掛けて来ていた。


 その光景を見て、メルトがジト目でオレに告げる。


「奴等は暇を持て余した野次馬だ。相手をすれば調子に乗るから気を付けろよ」


「ええ、まだ若い人魚達ですからね。油断すると海に引きずり込まれますよ?」


 メルトだけでなく、シェリルの視線も冷たい。

 手を振り返しただけで、この扱いは如何なものだろうか?


 オレは空気を読んで、人魚達の相手を切り上げる。

 そして、先頭のシェリルへと問い掛ける。


「ローレライも含めて、人魚達は皆あんな感じなのか?」


「ローレライは成熟した大人の女性となります。ただ、若い人魚はあんな感じかと」


 シェリルが顔をこちらに向け、苦笑いを浮かべていた。

 人魚族全体という訳でもないので、人間も人魚も同じなんだろうな。


 何となく納得して、オレは内心で大きく頷く。

 そして、取り留めのない会話をしつつ、吊り橋を黙々と歩き続ける。


 しかし、吊り橋も半分に差し掛かった所で、ある事実に気が付く。


「あの浮島……。あれは、一体なんなのだ……?」


 どうも、構成する足場は土でも草でも無さそうだ。

 白っぽくて、名状し難い物質が海面に僅かに見えるのだ。


 すると、メルトがニヤリと笑ってオレに応える。


「あれは大クラゲ。人魚達が使役する大型の魔物だな」


「あれが、クラゲ……? クラゲの上に建物が……?」


 メルトの回答にオレは戸惑う。

 建物のサイズからして、小さなクジラ程のサイズはあるはずだ。


 しかも、吊り橋を見ても、それなりに年期が感じられる。

 どれだけの期間、あのクラゲはあそこで漂っていたのだろうか……。


「推定で五百歳を超える魔物となります。歴代の女王が引き継いでるそうですよ」


「五百年を生きたクラゲか……。何ともファンタジーな生き物だな……」


 五百年も同じ場所に漂い続け、ただ建物を頭に乗せ続ける日々。

 あのクラゲは何を思い、あそこで生きているのだろうか?


 ……いや、クラゲだから何も考えていないのかもしれない。

 何も考えないクラゲだからこそ、浮島たり得るのかもしれない。


 答えの無い哲学にはまりそうで、オレはそっと考える事を止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ