魚人領
オレ達はいつも通りに馬車で移動を行っていた。
そして御者も、引き続きミニメルト人形達である。
オレは馬車での移動時間を利用して、いつも通り情報収集を行う。
「それで、魚人族の領地はどの様な場所なのだ?」
「はい、基本的な領地は魔王国周辺の海です。広さだけなら、最大の領土と言えますね」
西半分とはいえ、大陸周辺の海が全て領土だと?
魚人族の領域は、どれ程の広さとなるのだろうか……。
オレが衝撃の事実に固まっていると、シェリルが補足説明を加える。
「とはいえ、基本的には浅瀬付近のみ。深い海域は大海獣が出ますので、魚人族も踏み込む事はありません」
「大、海獣……?」
再び衝撃ワードが飛び出した。
大怪獣では無かったが、非現実的な存在がいるらしい。
オレが呆然としていると、再びシェリルが補足説明を加える。
「大海獣とは、クラーケン等の巨大生物です。魔物の中でも最大級の生物達で、海中ではドラゴンすら凌駕する強さです」
「遠方の海には、縄張りを守護するボスが居るという事だ。奴等が居るせいで、魚人族も浅瀬で生活せざるを得えんのだ」
シェリルの言葉にメルトが続く。
魚人族の領土は広大だが、それでも限りはあるという事らしい。
だが、領土の広さよりも、大海獣の存在の方が衝撃である。
この世界では大陸が全てで、海の外へ航海する事もないのだろう。
異世界とは本当に奥が深い場所である。
少し領地が変わるだけで、新事実が次から次に判明するのだから。
オレは腕を組んでウンウンと頷く。
オレが納得したと見てか、シェリルが再び話を戻した。
「魚人族の支配者は人魚。彼女達が半魚人を従えて領地を守っています。彼等は水陸両用ですが、住処は基本的に海の中となります」
「……海の中へ、オレ達は向かうのか?」
魚人族が海の中で暮らすのはわかる。
だが、オレ達が海中で会議出来るかは別問題だ。
いや、ファンタジーな世界なら、そういうのも有りなのか?
オレが内心で唸っていると、シェリルが苦笑を浮かべていた。
「いえ、湾内にある孤島に、来客対応用の宮殿が御座います。ローレライとの顔合わせも、そちらでの対応となります」
「ああ、なるほどな。魚人族も我々に合わせてくれる訳か」
残念さが半分、ほっとしたのが半分。
怖い物見たさはあるが、やはり慣れた陸地の方が安心ではある。
ほっと胸を撫で下ろすオレを見て、シェリルは微笑みながら続ける。
「そして、魚人族の拠点は、大陸西端にある巨大な湾となります。この海底に城を築き、人魚族が生活しております」
「湾の入り口が狭くてな。大海獣は入れない作りになっている。魚人族が住むのに、最適で安心な場所なのだそうだ」
確かに大海獣等が近くにいては、安心して生活も出来ない。
それらがおらず、最適な生活環境があるなら拠点とするだろう。
支配者が城を構えるなら、やはりそういう場所を選ぶのだろうな。
「それと、人魚族は肉体的には弱い種族ですが、高い魔力を持つ種族です。また、女性しか生まれない代わりに、他種族との間に子を成す種族でもあります」
「……奴等は気に入った男を平然と魔法で洗脳するからな。ユウスケ程の魔力耐性があれば問題無いが、そういう種族とだけは覚えておいた方が良いだろう」
二人が何やら渋い表情をしている。
人魚族の交配については、思う所があるのだろう。
しかし、オレに対する不安は感じていなさそうだ。
以前に伝えた『魔法抵抗力:9999』のステータス故だろう。
「魚人族については理解した。それで、交渉自体は上手く行くと思うか?」
「問題御座いません。身の安全さえ保障すれば、彼等は何も言わないでしょう」
自信を持って答えを返すシェリル。
どうやら、ローレライや魚人族を良く知っているらしい。
賢者であるシェリルが保証しているのだ。
ならば、オレがそれ以上を考えられるはずもない。
オレはただ流れに身を任せ、このまま馬車に揺られて行くのみである。




