朝食会
あの後、シェリルが何やらマジックを使ったらしい。
説得とは思うのだが、ゴルグが非常にフレンドリーとなったのだ。
夕食一つとっても、味、量、好みの食材等、根掘り葉掘り聞かれた。
余りにも細やかな気遣いに、逆にこちらが恐縮してしまう程であった。
そんな感じでゴブリン城で一泊をしたオレ達。
今朝も朝食会に招かれ、ゴルグからあれこれ聞かれている。
「昨晩は良く眠れましたかな? 我々が開発した最新技術のベッドをご利用頂いたのですが」
「うむ、素晴らしい寝心地だった。あの様な技術開発は、今後も是非、続けて欲しい所だな」
とはいえ、昨晩は珍しくメルトがハッスルした。
余り寝れなかったが、それは口にすべき事ではないだろう。
オレが空気を読んだ回答をすると、ゴルグは満足そうに頷いた。
そして、オレへと更なる質問を続ける。
「大魔王様のこの後の予定は? お時間がありましたら、領内を案内致しますが」
「ふむ、この後の予定か……」
鬼人族の交渉が思ったより、あっさりと片付いてしまった。
その為、その先の事は正直何も考えていないのだが……。
オレはチラリとシェリルへと視線を送る。
すると、彼女は心得たとばかりに説明を始めた。
「ディアブロより、人族への使者へ返事を返したと、連絡が届きました。勇者としての召喚には応じない。王としてなら交渉に応じると」
「なるほど、予定通りの動きがあったか……」
ディアブロが居てくれて良かった。
彼はこの状況を予想し、どう動くかまで考えてくれていた。
ならば、とりあえず魔王城の対応は問題無いだろう。
安堵するオレに対し、シェリルの言葉が続けられる。
「そして、また一月程は返事に時間が掛かるだろうとの事です。ですので、魚人族の領へ向かってはどうでしょうか?」
「うむ、ならばそうするとしよう。魔王国の統一も、早く進めておくべきだろうからな」
そもそも、オレの目的はメルトとの結婚式なのだ。
それを行う為に、まずは落ち着いた環境を作ろうとしている。
今の関係でも悪くないかなと、正直思う時はある。
だが、オレとしては中途半端な今の状況は気持ち悪いのだ。
早くけじめを付けてしまいたい。
そして、メルトとの幸せな家庭を築いて行きたいのである。
オレは初心を振り返り、決意を新たにする。
すると、ゴルグが難しそうな表情でオレに問い掛けて来た。
「魚人族といえば、海の女帝ローレライですな……。大魔王様が直々に向かわれるのですか?」
「ああ、そうだが……。それは、どういう意味だ?」
ゴルグの元へは直接やって来たのだ。
その流れからして、オレが向かうのは当然だろう。
しかし、それをゴルグは疑問に感じている。
その意味を問うと、彼は逡巡してから答えて来た。
「ローレライの声は男を惑わします。我々も交渉を行う際は、女性の代理人を立てているのです。ここは、シェリル様にお任せする方が、得策ではないでしょうか?」
「ほう、そうなのか……?」
魚人族の支配者は人魚だと聞いている。
そのローレライとやらは、男性が相手では分が悪いのだろう。
魔族の中では常識かもしれないが、オレにとっては初耳である。
どうすべきか悩むオレに、シェリルがクスリと笑って告げた。
「大魔王様を凡庸な男性と同列視すべきではありません。ローレライ如きの魔力が、届く訳がないでしょう?」
「ああ、その通りだ。私とシェリルも居るのに、奴が迂闊な真似をするはずもないしな」
どうやら、ゴルグの心配は杞憂であったらしい。
二人のお墨付きがある以上、オレの訪問には何の問題も無いのだろう。
オレはその事に安堵し、ゴルグに対して宣言する。
「ならば、食事を終えたらすぐに発つ。領地の案内は落ち着いた頃にまた頼もう」
「はあ、そうですか……。では、お気を付け下さいませ。色々な意味で……」
メルトとシェリルの言葉を聞いても、なお不安そうなゴルグ。
そして、彼の最後の一言に、オレも何故か一抹の不安を感じるのだった。




