最後は武力
オレの中で怒りが込み上げて来る。
ゴルグのやり方を、オレは決して認めはしない。
「いつから勘違いしていた? オレが貴様を殺さない等と……」
オレはスッと右腕を掲げる。
指先を真っ直ぐに伸ばして手刀を作る。
そして、その手に闘気を纏わせて振り下ろす。
――スパッ……
静かな音と共に、振り下ろした先が綺麗に裂けて行く。
目の前のテーブルだけで無く、部屋の床や壁も含めてだ。
「な、あ……」
ゴトリと音を立てて崩れるテーブル。
ゴルグはただ蒼白になり、その光景を眺めていた。
この技は、魔王48の殺人技が一つ『カラミティエンド』。
纏わせた闘気の手刀が、如何なる物でも切り裂く技である。
指輪で制限を掛けた状態でもこの威力。
Lv99のステータスでも、目の前の相手を殺すには十分である。
オレはゆっくりと椅子から立ち上がる。
その様子を見て、ゴルグが慌てて弁明を始める。
「お、お待ちください! 私は法に従っております! 不正は行っていないと、必ず証明し……!」
――スパッ……
ゴルグの言葉を無視し、オレは左腕を振り下ろす。
その斬撃は彼のすぐ側を通り過ぎて行った。
今のゴルグの両隣は、大きく床が切り裂かれていた。
逃げ場を失った彼に対し、オレはゆっくりと語り掛ける。
「お前は何もわかっていない。メルトが、シェリルが、何を求めて法を整備したのか……」
シェリルは力での略奪を禁止した。
それは、魔族からすると暴力の禁止と受け止めたのだろう。
しかし、力とは暴力だけでは無い。
金も知恵も力であり、それらでの略奪なら良いとはならない。
メルトとシェリルは、あらゆる略奪を認めていないのだ。
法律の穴を抜ける行為を、オレは正義だと認めない。
「オレから大切な物を奪う者は敵だ。法など関係ない。それがオレの正義だからだ」
「そ、そんな、馬鹿な……」
オレの言葉に、ゴルグの表情がぐにゃりと崩れる。
自らの身を守ると考えた法が、オレに対して無力と知った為だ。
そして、テーブルを踏み砕いて、オレは一歩を踏み出す。
怯えるゴルグを見下ろし、彼に対して問い掛ける。
「選べ、ゴルグ。自らの非を詫び、地に額を付けるか。それとも、自らの正義を示し、その首をここで落とすか」
ゴブリン王としての誇りに従うなら仕方がない。
ゴルグにはオレの敵として、ここで散って貰う事になる。
ゴルグにもきっと、王としての誇りがあるはず。
だが、オレとて部下を侮辱されて黙ってはいられないのだ。
お互いの正義がぶつかり合った結果だ。
どちらが悪いではなく、そういう運命だったと思うだけだ。
しかし、ゴルグはすぐさま椅子から飛び降りる。
すかさずオレの足元で、その頭を床へと叩きつけた。
「も、申し訳御座いませんでした! 私が間違っておりました! どうか、命だけはご容赦を……!」
巨大な体を小さくし、足元で震えるゴルグ。
その姿を見て、流石のオレも冷静さを取り戻す。
どうも、ゴルグには王としての誇りは無いらしい。
これでは、ただオレが弱い者を虐めただけになってしまう。
しかし、途方に暮れるオレに対し、背後でメルトが歓声を上げる。
「それでこそ魔王! いや、大魔王だ! 愛しているぞ、私のユウスケ!」
ゆっくりと振り返り、メルトの方へと視線を向ける。
するとメルトは、キラキラした目でオレの事を見つめていた。
オレは盛大にやらかしたはずなのだ。
それなのにメルトは、今にも飛び掛からん程に興奮していた。
そして、それに続くように、シェリルもオレへと声を掛ける。
「大魔王様、ありがとうございます。後の処理は、このシェリルにお任せ下さい」
こちらも蕩ける様な笑みを浮かべていた。
頬を赤くして、湯だったかの如く頭をフラフラとさせている。
オレはチラリと部屋の光景を確認する。
床も壁も調度品も、全てが見るも無残な姿であった。
オレはそれらから視線を逸らす。
そして、シェリルに向かって返事をする。
「ならば、後は任せる。何かあればすぐに呼べ」
「はい、承知致しました」
シェリルはゆっくりと頭を下げる。
その足元では、ミニメルト達が親指を立てて微笑んでいた。
シェリルの話では、この人形達にも戦闘能力があるらしい。
ゴルグが逆上しようとも、助けを呼ぶ時間は稼げるだろう。
オレはそう納得し、メルトを引き連れ部屋を出る。
メルトは嬉しそうに、オレへと腕を絡めて来た。
最後にオレは、シェリルへと視線を向ける。
未だ彼女は、オレに対して頭を下げたままだった。
そんなシェリルに対して、オレは内心で謝罪する。
後始末を押し付ける形になって申し訳ないと……。




