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契約違反

 ゴルグは幽鬼の如き瞳で、シェリルを見つめていた。

 そして、彼女に対してニタリと笑う。


「貴女の部下達は、契約違反を犯しました。雇い主の許可無く、魔王城へと帰還しましたからな」


 ゴルグの言葉に、シェリルの表情が凍り付く。

 どうやら、思い当たる節があるみたいだ。


「城の修繕工事でしたか? その工事とて、我々の物資と技術を盗んだのではないのですかな?」


「城の、修繕工事……?」


 ゴルグの言葉で、オレにも事情が理解出来た。

 先日、魔王城で雇用した、百名程の悪魔達である。


 彼等はシェリルの呼び掛けに応じて集まった。

 そして、修繕の物資は自分達で調達したとも語っていた。


「いくつかの商会からクレームが上がっております。彼等のせいで、商売が滞る事になったとね」


 ゴルグの言葉が正しい場合、その影響は想像できる。

 急に従業員が居なくなれば、現場は間違いなく混乱するだろう。


 更には物資が失われれば、大きな混乱が起きるはず。

 知識や技術の流出も、研究した当事者からすれば憤慨物だろう。


 オレは身を案じて、シェリルに視線を向ける。

 すると彼女は、気を取り直して気丈に答えた。


「それは見解の相違という物です。契約違反を犯したのは、むしろ貴方達だという認識ですので」


「ほう、我々が契約違反ですと?」


 心外だとばかりに、ゴルグが目を見開く。

 そんな彼に対して、シェリルは鋭い視線を向ける。


「契約外の長時間労働。難癖を付けての給金減額。私も現場から多くのクレームを受けています」


「それこそ、見解の相違ですな。雇用主からの話では、彼等は全て受け入れたと聞いていますよ」


 怒りの視線で睨み付けるシェリル。

 余裕の笑みを見せるゴルグ。


 どうやら、状況的にはゴルグが優勢らしい。

 ゴルグ達はルールの範囲内で、有利に立ち回ったのだろう。


 それでもシェリルは、諦めずに懸命に戦う。


「基本的に物資は購入した物。失われた物があるとすれば、不払い分の範囲内で頂戴した物です。契約についても、不当な扱いがあれば解除可能としております」


「不払いがあっても、窃盗は事実という事でしょう? それに、不当な扱いについても、貴女の部下達が一方的に言っているだけですしね」


 益々、笑みを深めるゴルグ。

 彼の中では、既に勝敗が決したと考えているのだろう。


 歯噛みするシェリルに対し、ゴルグは目を細めて言葉を続ける。


「そこまで仰るなら、裁判で決着を付けましょうか? 貴女方が権力を振るわなければ、我々が負ける事は無いでしょうがね」


「くっ……!」


 略奪を禁じる法を作ったのはシェリルだ。

 その法律を、自ら曲げるのかとゴルグは問うているのだ。


 勿論、オレが権力を振るえばシェリルを勝たせる事は出来るだろう。

 しかし、それを行えば、オレ達の側に正義は無くなる。


 それをわかって、ゴルグは自らの勝ちを確信したのだ。

 いずれにしても、鬼人族こそが被害者なのだと知らしめる事になるのだから。


 しかし、そこでゴルグは、不意ににこやかな笑みを浮かべた。


「しかし、我々とて戦いたい訳では無い。戦えば失う物の方が多いですからな」


「……どういう、ことでしょうか?」


 急にゴルグが話の流れを変えた。

 契約違反の話は、彼から出して来たにも関わらずだ。


 シェリルは警戒する様にゴルグを睨む。

 そんな彼女に対し、ゴルグは満面の笑みを向ける。


「私が行いたいのは示談交渉。貴女から和解の提案を頂きたいのです。勿論、金銭等は望んでおりませんがね」


「……金銭以外の提案? 貴方は私に、何を望むと言うのですか?」


 シェリルの問いに、ゴルグは大きく頷いて見せる。

 そして、テーブルの上に、見覚えのある一つの道具を置いた。


 

 ――それは、『隷属の首輪』だ。



「期間は一年……いえ、半年で結構です。私の部下として働くのは如何でしょう? 元四天王の部下を持てば、私の経歴にも泊が付くというものです」


「ゴルグ、本気で言っているのか……?」


 今まで黙っていたメルトも、これには流石に怒りを表す。

 鋭い視線で彼の事を睨みつけていた。


 しかし、その視線にも怯まず、ゴルグはシェリルへ問い掛ける。


「契約満了後が怖いので、無茶な要求は致しませんよ。そして、そうご提案頂ければ、後は私が全て上手く纏めてみせましょう。ああ、ついてでに、歴代魔王様の借金も帳消しに致しましょう」


「それで、全てを……」


 シェリルの瞳が揺れていた。

 それで問題が片付くなら、受け入れる余地があると考えているのだ。


 ゴルグはにこやかな笑みを浮かべている。

 しかし、その瞳を見れば、その裏の感情を読み取る事が出来た。


 ゴルグの内心では、ドロドロと欲望が溢れ出している。

 優れた女性を支配したいという、醜い男の欲望が……。


「おい、ゴルグ……。貴様は何を勘違いしている……?」


「は……?」


 オレの言葉に、ゴルグは間の抜けた言葉を返した。

 オレの感情の変化を、彼は理解出来ていないらしい。


 自らが犯した失態に、彼は気付いていない。

 オレの部下に手を出す、その愚かさについて……。


「いつから勘違いしていた? オレが貴様を殺さない等と……」


 オレの言葉に、ゴルグの顔色が真っ青になる。

 ここに至って、ようやく自らに状況が理解出来たらしい。



 ――そう、今のオレは、ブチ切れているのだ。

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