都市風景
ゴブリン達の領主は、ゴルグ=シグという名らしい。
種族名としてはゴブリン王となるそうだ。
そして、ゴルグが治める首都がゴルグ・タウン。
彼の住まう城塞があり、最も栄えた街という訳である。
オレ達は馬車に乗りながら、窓から街の風景を確認する。
ゴルグ城へと続く、大通りをゆっくりと進みながら。
「……なるほど。言いたい事が良くわかった」
窓から見える風景は、綺麗に整備された街並みとは違う。
様々な技法で乱立し、増築された建物の群れだった。
そのどれもが自己主張の強い看板や装飾が目立っている。
イメージで悪いが、中華の裏社会を連想させる街並みだった。
そして、店番等はゴブリンと呼ばれる小鬼達である。
緑の肌と二本の角が特徴的な、子供の様な小間使いである。
更に大通りを歩くのが、人間と同等の体格を持つ鬼達だ。
緑の肌と二本の角は同様だが、こちらは知的な雰囲気が感じられる。
彼等が街の支配階級である、ホブゴブリン達なのだろう。
値が張りそうなスーツを着て、我が物顔で大通りを歩いている。
「しかし、あれがオーガか? 立ち振る舞いから、用心棒なのだろうが……」
ホブゴブリン達は、その背後に体格の良い大鬼を連れ歩いていた。
いずれも武器や防具で身を固め、荒事を仕事にすると理解出来る。
オーガを傭兵に雇う事は事前に聞いていた。
しかし、問題なのは彼等の首に嵌めた鉄の輪っかである。
「あれは『従属の首輪』で御座います。主人に害意を持つと、激しい苦痛を与える呪具です」
「なんだと? この街では、奴隷が認められているのか?」
メルトの話では、魔王国では奴隷を認めていないはず。
その法を無視して、彼等は平然と奴隷を連れ歩いているのだろうか?
オレが疑問に首を傾げると、シェリルはゆっくりと首を振る。
「奴隷では御座いません。雇用契約として、期間内の着用を義務付けているのです」
「法で縛ろうと、無視する者はいるからな。奴等の主張は自己防衛の対策との事だ」
オーガは見た感じ、粗暴で短気そうな印象である。
確かにあれを連れまわすなら、自衛手段が無いと恐ろしそうである。
だが、メルトとシェリルの視線は冷たい。
理屈としてはわかるが、感情的には納得行く物ではないのだろうな。
「魔族の発展の為、略奪を禁じた。しかし、私が目指した未来は、決してこんな物では無かった」
「これでは、人間の街と変わりません……。いえ、それ以上に歪な風景とも言えるでしょう……」
最弱種族であるゴブリン達。
そのコンプレックスにより、自己顕示欲が溢れた街並み。
それがこのゴルグ・タウン。
そして、ゴブリン種族の領土という事なのだろう。
更には遥か先に、黒鉄の城も視界に入って来る。
鋼鉄をふんだんに使った、強固な守りを持つと思われる城塞。
至る所に武装したオーガも配置されている。
かなりの金を掛けて、相当な戦力を確保しているのだろうな。
さて、この地の領主と、どう対応するべきか……。
オレが悩んでいると、二人の言い争いが耳に届く。
「奴等には魔族の誇りも、男らしさも無い! もっと、腕力で語り合うとか出来んのか!」
「いえ、腕力で物事を進めるのは愚策です! 皆が大魔王様を見習うべきかと思います!」
メルトの意見に、シェリルが反論を述べる。
すると、メルトは呆れた視線で、シェリルに指を突き付ける。
「馬鹿者、ユウスケは別格だろうが! ゴブリン如きが、ユウスケの真似を出来るものか!」
「それには同意致します! しかし、その意向を汲み、導きに従う事こそが正道なのかと!」
……これは、言い争いなのだろうか?
何となくだが、オレの思う内容とは違っていたらしい。
まあ、喧嘩するほど仲が良いという言葉もある。
二人は有る意味で、意見を言い合える友人関係でもあるのだろうな。
オレは二人のやり取り微笑ましく眺める。
そして、ゴルグ=シグの対応を、一人でぼんやり考えるのだった。




