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ウェイクアップ(シェリル視点)

 本日の打ち合わせは無事に終了しました。

 今回は除け者にもされず、最後まで残る事が出来ました。


 私は自室の椅子に腰かけ、安堵の息を吐きます。

 そして、目の前のテーブルへと視線を落とします。


「…………」


 そこでは、三体のゴーレムが縄跳びをしています。

 どこからか、適度な長さのロープを見つけて来たみたいです。


 オリハルコン製とミスリル製のゴーレムが縄を回しています。

 その縄を、アダマンタイト製のゴーレムが器用に飛んでいます。


 そのシュールな光景を前に、私は思わず頭を抱えてしまいます。


「こんな魔術回路、組み込んでません……」


 メルト様の声真似をし、喋った事にも驚きました。

 そんな機能など、どう実装して良いか見当も付かないからです。


 更には理解不能な事に、命令も無しに勝手に動き出す。

 魔力の供給が無くても、いつまでも動き続けている。


 一体、このゴーレムはどうなっているのでしょうか……?



 ――コンコン



 頭を抱えていると、ノックの音が飛び込んできました。

 扉の方を確認すると、驚くディアブロの姿が確認出来ました。


 ……そういえば、扉が壊れたままでしたね。

 ノックをしたら、勝手に開いて驚いたのでしょう。


「……ふむ、失礼しますよ。少々、お話したい事が御座います」


 気を取り直したディアブロが、部屋へと踏み込んできました。

 そして、テーブルのゴーレム達を見て、びくりと肩を震わせました。


「うぅ……」


 正直、ディアブロの事は苦手です。

 部下と思ったら裏切られ、手酷い評価を受けましたしね……。


 気分は乗りませんが、話しは聞かねばならないのでしょう。

 出来る事なら、彼にはお引き取り願いたい所なのですが……。



 ――ガタッ……!



 物音に驚いて視線を降ろすと、ゴーレム達の姿がありません。

 そして、テーブルから飛び降りる、アダマンタイト製ゴーレムを発見します。


 ……少しばかり長いので、以降は黒メルトと呼ぶことにします。

 黒メルトは床への着地と同時に、その手をディアブロへと翳します。


「だーく・みすと」


「「なっ……?!」」


 子供の様な声と共に、闇属性の魔法が放たれました。

 ディアブロの身を闇が包み、彼の視界を奪ってしまったのです。


 しかし、ディアブロも魔界屈指の強者です。

 慌てはしても、しっかりと対抗してみせます。


「――くっ! ディスペル!」


 魔法解除の魔法により、ダーク・ミストを消し去ります。

 そして、ディアブロは剣を構える、黒メルトの姿を目にします。


「ぷち・ふれあ」


「ごはっ……?!」


 放たれた火炎系魔法により、彼の背中で小さな爆発が起こります。

 気が付くとドアの陰に、黄金メルトが隠れていました。


 プチ・フレアは名前こそアレですが、上級魔法に位置します。

 威力を抑える代わりに、魔力消費と連射性に優れた魔法なのです。


 ダメージは大した事が無いでしょうが、その事実に驚かされます。

 そして、私は驚きと同時に、ある疑問が脳裏に浮かびます。



 ――銀メルトはどこに?



 その疑問は、恐らくディアブロも抱いたはず。

 そして、その答えを私とディアブロは同時に得る事になる。


「うごくな……」


「な、あ……?」


 ディアブロの肩に張り付き、喉元に突き付けられるナイフ。

 暗殺者の如き動きを見せる、銀メルトがそこに居たのです。


 しかも、ナイフがバチバチと帯電しています。

 恐らく、魔力付与による強化魔法が施されているのでしょう。


 起こった一連の出来事に、私は頬が引き攣るのを感じる。

 このゴーレムは、私が思った以上にヤバイ存在かもしれない……。


「ま、待って下さい! 争いに来たのではありません! 私は謝罪をしに来たのです!」


「謝罪、ですか……?」


 話の内容はピンと来ない。

 焦って出まかせを言っている可能性すら疑ってしまう。


 ディアブロは呼吸を抑えて、ゆっくりと語り掛けて来た。


「大魔王様の元、下手な真似をするはずがないでしょう? 彼等を引いて、話を聞いて頂けないでしょうか?」


「……皆さん、戻って貰えますか?」


 私がお願いすると、ゴーレム達は素直に従ってくれました。

 すすっと私の足元に集い、私を守る様にディアブロと対峙します。


 剣を構える黒メルトに、帯電を解かない銀メルト。

 黄金メルトに至っては、フレアの火球でお手玉をしています。


 彼等の戦意は高そうですが、いきなり襲い掛かる事は無さそうです。

 ディアブロは緊張した様子で、私に向かって頭を下げて来ました。


「以前は失礼な評価を下し、本当に申し訳ありませんでした。あれから魔王軍の過去を洗い、貴女の功績を理解したのです」


「私の、功績ですか……?」


 ディアブロが何の事を言っているのか理解出来ない。

 私なんて、ずっとメルト様に振り回されて来ただけの存在だ。


 他の四天王や魔族からの不満も噴出して火消しを行ったりもした。

 だけど、ディアブロが謝罪する程の事があっただろうか?


 内心で首を捻る私に、ディアブロが頭を上げて説明を始める。


「食糧難に財政難。劣勢に置かれた戦況の巻き返し等、その功績は数え切れません。どうしてそれらを誇らぬのか、私には理解出来ない程の功績ばかりです」


「はぁ……?」


 心当たりはあるが、それは過大評価という物です。

 それらは炎上案件を、泣きながら対処した結果なのですから。


 やりたくてやった訳ではない。

 むしろ、思い出したくない過去ばかりです……。


「そして、本日は心底思い知りました。私はまだ、貴女の事を見誤っていたのだと……」


「見誤っていた、ですか……?」


 ディアブロは何が言いたいのだろうか?

 もう面倒になって来たので、早く帰って欲しいのですが……。


 そんな私の内心を他所に、ディアブロは二っと笑ってこう告げる。


「真の策士は実力を隠すもの。四天王最弱というのも、周囲を欺く演技なのでしょう? ――人形使い(ドールマスター)シェリルよ」


「は……?」


 人形使い(ドールマスター)と言えば、人形好きの変態どもだ。

 愛する人形を動かす事に、生涯を掛けて研究を重ねる狂人どもである。


 何故、私がその様な存在と同一視されねばならないのか……。


「ふっ、私は確信しました。貴女こそが、私の好敵手ライバルであると。大魔王様の右腕という名誉は、貴女と競う定めにあるのだとね」


「えぇ……」


 勝手にライバル宣言しないで欲しい。

 大魔王様の右腕には、ちょっと憧れたりするけど……。


「負けるつもりはありません。ですが、貴女の手腕を楽しみにしています」


 言いたい事を一方的に言うと、ディアブロは身を翻す。

 そして、部屋を出て行き、そっと壊れた扉の閉じてくれた。


 私は疲れてガックリと肩を落とす。

 そして、テーブルで再開される縄跳びに、大きな溜息を吐くのだった。

第八章が終了となります。

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