ご機嫌大魔王様
シェリルから魔王領の状況は概ね聞く事が出来た。
思った以上に国は荒れ、不味い状況と言う事がわかった……。
まず、この世界ポラリースは、大きな一つの大陸で出来ている。
その上で東が人族、西が魔族の支配域として分かれているのだ。
そして、魔王城は西側中央に存在し、魔族の支配を行っている。
しかし、支配力の強さが、魔王城から西と東で異なるのだ。
人族との争いがある東側は、支配力が強く魔王を信奉する民が多い。
逆に争いの無い西側は、魔王への忠誠心が低くなっているとの事だ。
そして、オレが最も戦力の高い、中枢戦力を撃破した。
それにより、人族との戦争が劣勢となり、背後の魔族も警戒が必要らしいのだ。
この状況を好転させる為に、オレの協力が必要らしい。
オレはシェリルの説明に納得し、腕を組んで大きく頷いた。
「――なるほど。全ての敵を叩き潰せば良い訳だな?」
「全て叩き潰されては困ります。ご自重くださいませ」
どうも、オレの予想は外れてしまったらしい。
シェリルは頬を引き攣らせながら、顔を左右に振っていた。
とはいえ、オレに出来る事など他には無いと思うのだが?
オレにやれる事なんて、この異常な力で戦う事しかないはずだ。
オレが首を傾げていると、食堂の扉が開いた。
そして、マイ・エンジェルが降臨した。
「ああ、メルト。もう疲れは取れたのか?」
メルトは黒のワンピース姿だった。
鎧姿も凛々しかったが、清楚なこの姿も実に素晴らしい。
そして、オレの問い掛けに、メルトは鋭い視線を返す。
ぶつぶつと呟きながら、こちらに向かって歩いて来た。
「誰のせいで疲れたと思っているのだ……」
呟くメルトに、オレは隣の席をポンポン叩く。
当然ながら、オレの隣は彼女の為にいつでも空いている。
しかし、メルトはスッと進路を変更する。
オレの隣ではなく、向かいのシェリルの元へと向かった。
おいおい、そんなに恥ずかしがらなくても良いんじゃないかな?
気持ちはわかるが、それはちょっと寂しいじゃないか……。
立ち上がろうとすると、オレより先にシェリルが動いた。
「メルト様、座る場所を間違えていますよ?」
シェリルは腕を掴み、メルトへ笑顔を向ける。
そして、オレの隣に向けて、反対の手で指さして見せる。
二人は少しの時間、互いに睨み合った。
だが、最後はメルトの方が折れたらしい。
「くっ……。シェリル、後で覚えておれ……」
捨て台詞を吐きながら、メルトがオレの元へと向かう。
照れ隠しなのか、オレから顔を逸らしていたが。
そして、オレは中ではシェリルの株が爆上がりした。
どうやら彼女は、オレの良き理解者らしい。
表情を歪めるメルトへ、オレは笑顔を向ける。
そして、今度のオレは、自らの膝をポンポンと叩く。
「メルトの為に、オレの膝はいつでも空いている」
「ぐ、ぐぬぬ……」
メルトは表情を引き攣らせ、その場で足を止める。
やはり彼女は、相当な恥ずかしがり屋なのだろうな。
だが、メルトの決心もすぐについたらしい。
大人しくオレの膝へと腰を下ろした。
「ふふ、可愛い奴め」
「ぐ、ぎ、ぎぎ……」
羞恥心を感じるメルトは、歯を食いしばっていた。
まあ、慣れるには多少の時間も必要なのだろう。
オレはメルトを落ち着ける為に、メルトの尻尾を撫でる。
敏感な部分なのか、尻尾はピンと伸びて反応していた。
「あ、あの、大魔王様? 大切なお話をしても宜しいでしょうか?」
何やら慌てた様子で問い掛けてるシェリル。
恥ずかしがるメルトに、気遣わしそうな視線を送っている。
「どうした、シェリル? 今ならば大抵の事は受け入れるぞ」
今のオレはとても機嫌が良い。
この状況を作ったシェリルの為、多少の無茶なら聞いてやれる。
しかし、シェリルは想定外の行動に出る。
机の下から、両手で包める程の水晶玉を取り出したのだ。
……もしや、オレとメルトの相性占いか?
「これはステータス・オーブです。宜しければ、大魔王様のステータスを拝見させて頂きたく……」
「おお、なるほど! それは是非とも確認せねば! 早速そのオーブに触れてくれ!」
シェリルの提案に、途端にご機嫌となるメルト。
どうやら、夫の能力に強い関心があるらしい。
「ふふ、やはり可愛い奴だな……」
これに触れれば、オレの能力が表示されるのだろうか?
オレはメルトを喜ばせようと、目の前のオーブへ手を伸ばした。
――と、何故かオレの右腕が、黄金色に輝きだした。
「む……? これは、一体……?」
よくよく見れば、オレの全身が光に包まれている。
その光景に戸惑っていると、オレの頭に声が響いた。
『ごめん、ゆう君! 緊急事態だから、こっちに呼ぶね!』
オレはこの声に聞き覚えがあった。
この声は一月前に会話した、女神様の声である。
オレは状況が良くわからぬまま、その場から強制転移させられた。




