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慰労会

 概ねの議論が終わり、程良く日が暮れ始めた。

 今日の会議は終了となり、続きは鬼人族の訪問後という事になった。


 そして、オレ達は皆で食事を取り、その後は懇親会という流れだ。

 ただし、今回は男性三人だけの、慰労会の意味合いが強い。


 前線で指揮を執るリオン。

 魔王城でオレの代理を務めるディアブロ。


 上司として二人の働きに対し、労いも必要と考えた為である。


「かーっ! やっぱ、こいつは旨えっすわ!」


「これが、『神酒ソーマ』。何と甘露な……」


 もてなすと言えば、やはりこれだろう。

 『神酒ソーマ』を振る舞い、外した事が無いからな。


 幸いな事に、在庫はまだまだ十分に残っている。

 樽を床に置いて、手酌で飲み放題形式とさせて貰っている。


 オレはゆったりとソファーに身を預ける。

 そして、向かいに座る二人へ、視線を向けて問い掛ける。


「まずはリオン。前線の様子はどうだ? 小競り合いは続いているのか?」


「いえ、ご心配なく。旦那の訪問以来、人族からの手出しはありませんぜ」


 酒を味わいつつ、楽しそうな笑みを浮かべるリオン。

 久々の『神酒ソーマ』に、彼のテンションも上がり気味の様子だ。


「獣人族は本当に良くやってくれている。リオン達のお陰で、多くの魔族が静穏に暮らせているのだからな」


「ありがてぇ言葉です。こんな風に労われるっても、中々に悪くないもんですな……」


 オレの労いに対し、リオンはすっと頭を下げる。

 この場の趣旨を理解しており、逆にお礼を言われてしまった。


 まあ、獅子の顔で年齢不詳だが、彼もそれなりの歳らしい。

 彼から見たら、オレの方こそ若造に見えているのかもしれない。


 オレは苦笑を浮かべ、次にディアブロへと言葉を掛ける。


「ディアブロにも助けられている。呼び出されたばかりで、オレの代理を任せて済まないな」


「勿体なきお言葉。大魔王様のお役に立てているのなら、この上なき喜びで御座います」


 ディアブロもオレへと頭を下げる。

 彼も初代魔王に仕えた、歴戦の悪魔なので仕方がない。


 上司気取りで彼等を集めたが、かえって気を使わせただろうか?

 オレは内心で若干の後悔を感じつつ、彼等へと問い掛ける。


「二人は何か困っている事が無いか? 折角の機会なのだ。普段言えない事も言って貰いたいな」


「はっはっは、普段から好きにやらせて貰ってますんで。オレからは特に何もありやせんぜ」


 豪快に笑いながら、リオンがオレへと手を振って見せる。

 彼のその様子から、遠慮しているという感じでも無さそうだ。


 しかし、ディアブロは少し考える素振りを見せる。

 そして、言葉を選ぶ様に、慎重に質問を投げ掛けて来た。


「大魔王様は、女神マサーコ様とお会いになられているのですよね? どの様なお方かお伺いしても?」


「ああ、確かにそれは聞いてみてえな! 大魔王の旦那、女神マサーコ様はどんなお方なんですかい?」


 どうやら、二人は女神マサーコ様に興味があるらしい。

 その質問は、実に素晴らしいと言えるだろう。


 オレはふっと笑みを浮かべ、二人に対して説明を行う。


「年齢としては三十歳近くの女性だな。だが、柔らかで神聖な気配を纏い、常に慈愛に満ちた笑みを浮かべている。誰よりもこの世界の平和を望んでおり、全ての種族へ慈悲を向けておられる方だ。オレはその願いを叶える為に、女神マサーコ様の使者としてこの地に降り立ったのだ」


 こんな凡庸な言葉で伝わるかという不安はある。

 だが、まずはこの辺りから話すべきだろうと考えた。


 しかし、この説明はディアブロの望む物では無かったらしい。

 彼は口元を隠しながら、悩む様子で問い掛けて来た。


「女神マサーコ様は、人族の神ですか? それとも、魔族の神なのですか? それ以前に、どうして世界の管理者と呼ばれているのでしょうか?」


「うん……?」


 ディアブロの質問は、オレの考えていた物とは違うらしい。

 女神マサーコ様の人柄等が知りたい訳ではなさそうである。


 そして、オレの態度に何かを察したのだろう。

 ディアブロはオレに対して説明を始める。


「私がもと居た時代。世界には『白の竜神様』と『黒の竜神様』がおりました。このお二人が世界を創生し、世界を発展させていたのです。そして、『白の竜神様』が人族を生み出し、『黒の竜神様』が魔族を生み出しました。……しかし、私の調べた限りでは、この創生神を知る者が誰もおりません」


「創生神を、誰も知らない……?」


 そういえば、ディアブロは初代魔王の補佐官。

 遥か過去よりやって来た、太古の悪魔なのである。


 この時代の存在で無いが故に、この世界の成り立ちを知る。

 だからこそ、今の世界に対して、違和感を感じているのだろう。


 リオンも何やらソワソワし始めた。

 知ってはいけない、世界の謎に触れようとしているかもしれない。


 オレはゴクリと喉を鳴らす。

 そして、ディアブロに対して、踏み込んだ問いを行おうとし……。



 ――オレの体が、唐突に光に包まれた。



「こ、これは……。女神マサーコ様かっ……?!」


 ディアブロとリオンが呆然とオレを見つめていた。

 突然の展開に、彼等も咄嗟にどう行動すべきか判断出来なかったのだろう。


 オレは二人を安心させる様に、笑みを浮かべて頷いて見せた。

 女神マサーコ様からの呼び出しであれば、恐れる事など何もないのだから。


 そして、オレは二人の視線を浴びながら、この世界から姿を消した……。

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