最高責任者
王国の案件は方針が決定した。
だが、人族の案件としては、まだ話すべき事項がある。
「ラヴィの領地で、ホビット族からの使者がやって来た。エルフ族、ドワーフ族を含め、オレの元に下る意思があるそうだ」
オレはデスク上に、受け取った手紙を置く。
ディアブロは一礼して、その手紙を手に取った。
そして、ディアブロはさっと目を通し、手紙をデスクに戻す。
オレは手紙をシェリルに回しつつ、彼へと意見を求める。
「人間以外の人族を支配する事も可能だ。その事について、どう考える?」
「どう考えるとは? 包囲網を形成し、人間達に圧力を掛ける好機では?」
ディアブロは不思議そうに問い返して来る。
人間種族を孤立させ、圧力を掛ける事を是とするらしい。
ホビット族、エルフ族、ドワーフ族を味方に付ける。
そうする事で、優位な立場で事を進めるべきと言う意見だろう。
しかし、隣のシェリルからは、別の意見が飛び出してくる。
「その場合、人間達は団結して抵抗するでしょう。徹底抗戦を決め込まれては、和平の道が遠のくと思われます」
「うむ、それは我々の望む所では無い。可能ならば、人間を含めた人族と共存すべきだろう」
シェリルの意見に、メルトが同調する。
こちらの二人は、人間種族を刺激すべきでは無いという考えだ。
オレとしても、考えはこちらに近い。
ホビット達と手を組むにしても、十分な議論を重ねた上であるべきだ。
すると、次にリオンからの反対意見も出て来た。
「人間以外が離反するんでしょう? 残された人間は、焦って頭を下げて来るんじゃないですかね?」
「いえ、そうはならないでしょう。人族の割合で、人間は全体の七割を占めます。更に彼等は、支配者としてのプライドもありますからね……」
リオンの意見は、シェリルが即座に否定する。
人族の割合にも驚きだが、その的確な分析は流石と言える。
元々、メルトの補佐官として奮闘して来た人材である。
現状を最も理解しているのは、やはり『知将』シェリルなのだろう。
オレが内心で満足していると、徐にディアブロが手を上げる。
そして、オレに対して質問を投げ掛けて来た。
「そもそもの話なのですが、大魔王様が出向けば一撃で終わるのではないでしょうか? 本気を出して頂ければ、この世界で立ち向かえる存在も居ない訳ですし」
「そうなんだよな……。大将はどうして、その力を使おうとしないんです?」
ディアブロとリオンは、共にオレの指輪を見つめる。
指輪の制限を外し、武力での支配が早いと考えているのだろう。
確かにそれは、結果を出すだけなら手っ取り早い。
オレのこの身みには、人を超えた力が宿っているのだから。
――だが、オレにはそれを行えぬ理由がある。
「この力は、女神マサーコ様から頂いたもの。そして、女神マサーコ様の望みは、全ての種族の幸福なのだ。だからこそ、オレは力による支配を選択すべきでは無いと考えている」
「女神、マサーコ様……」
ディアブロは動揺した様子で呆然と呟いた。
そして、リオンは納得した様に頷いていた。
視線を向けると、メルトは満足気に微笑んでいる。
シェリルも頭を下げて、オレの意思に従うと示していた。
この場の全員の意思は確かめた。
その上でオレは、最高責任者としての務めを果さねばならない。
「ホビット族の提案は受け入れる。ただし、手の組み方は検討を行う」
オレは言葉に力を籠める。
自らの意思を、皆に向かって示す為に。
その想いが届いたのだろう。
皆が真剣な表情を浮かべ、オレの言葉に耳を傾けていた。
「彼等には我々に下る際の条件を付ける。そう、人間への恨みを捨てる事が絶対条件だ」
「なっ……?!」
ディアブロが驚きの声を漏らす。
そして、残りの者達も多少なりとも驚きを示していた。
彼等にとって、オレの考えは想定外だろう。
だが、ずっと考えていたが、望む未来を得るにはこれしかない。
「そして、オレは大魔王として宣言しよう。過去を捨て、共に歩む者には未来を約束すると。――だから、皆はオレを信じて付いて来い!」
「ふっ、それでこそだ。それでこそ、私のユウスケだ!」
メルトは嬉しそうに、オレへと笑みを向けている。
シェリルは何やら、赤い顔でフラフラとしていた。
リオンは楽しそうに、ひゅ~っと口笛を吹いて見せた。
そして、ディアブロは身を震わせ、その場ですっと膝を付いた。
「承知致しました。大魔王様のご意思に従い、何処までも付き従いましょう」
最高責任者であるオレは、自らの意思を明確に示した。
これにより、組織は一体となって動きだす事となるだろう。
状況がわからず、様子を見ていたこれまでとは違う。
これからはオレの責任で、皆の未来を導かねばならないのだ。
そう、オレはこの日をもって覚悟を決めた。
最高責任者――大魔王として、その行動に責任を持つのだと。




