もたらされた報告
魔王城の執務室にて会議は続く。
オレはデスク越しに、ディアブロへと問い掛けた。
「そういえば、王国からの返事はどうなっている?」
「いえ、まだ届いておりませんね。――しかし、状況は把握しております」
仮面によりディアブロの表情はわからない。
しかし、口元がニイッと裂けた事より微笑んだとわかる。
……相変わらず邪悪に見えるのは秘密とするが。
「貴族や騎士を集めての会議が紛糾しております。大多数は和平に反対で、残りも表面的な和平受け入れですね」
「ふむ、我々の望む結果とはならんか……」
オレとメルトの望みは真の和平である。
人族と魔族が争う事無く、平和に過ごせる世界なのだ。
まずは仮初の休戦からでも仕方がないとは思う。
しかし、最終的なゴールへの道のりは、まだまだ長そうである。
オレが腕を組んで唸っていると、ディアブロは硬い声で続ける。
「更には、大魔王様を呼び出す案も浮上しております。人族の勇者として、説明をしに戻って来いと言う意見です」
「オレが説明の為に、王国まで戻るのか?」
それはかなり面倒だと感じられた。
紛糾した会議の場に、召喚されての詰問なのだろう。
どう考えても、楽しい状況になりそうにない。
オレはげんなりとしながら、皆へと意見を求めてみる。
「皆はどう思う? その要求には応じるべきと思うか?」
「論外ですね。要求に応じれば、奴等は図に乗るでしょう」
真っ先に反応を返したのはディアブロだった。
その口調からは、多少の不機嫌さが滲み出ていた。
更に続くのが隣のリオン。
彼も呆れ口調でやれやれと首を振る。
「大魔王様は、うちらの大将なんですぜ? 王様らしく、どっしり構えといて下せえ」
二人とも意見としては反対らしい。
呆れや不機嫌は、恐らく王国側の対応に関してだろう……。
オレは次に、シェリルへと視線を向ける。
彼女は考える素振りをみせ、自らの考えを口にする。
「応じれば、魔王城へ戻るのが困難になるでしょう。大魔王様ですと強行突破も可能ですが、その際は和平交渉は……」
最後は言い淀んだが、言いたい事は理解出来た。
シェリルとしても、行くべきではないと言いたいらしい。
オレは最後にメルトへと視線を向ける。
彼女はふっと笑って、オレに向かってこう告げた。
「ユウスケの好きにしろ。最後に決めるのも、責任を取るのもお前なのだからな」
聞き様によっては、突き放しているとも取れる意見だ。
だが、その目を見れば、メルトの真意は理解出来た。
メルトはオレの事を信頼しているのだ。
最後にはきっと、何とかしてくれると考えているのだろう。
メルトの気持ちを心地良く感じながら、オレはゆっくりと頷いて見せた。
「ならばオレは、大魔王らしく振る舞おう。勇者への要求なら応じない。国同士の代表として応じる様に、返事を返しておいてくれ」
「はっ! 人族より要求があった際は、その様に応じておきます!」
オレの言葉にディアブロが応じる。
すっと頭を下げて、オレの命令を受諾していた。
そして、オレはぼんやりと考える。
気が付くと、すっかりディアブロが補佐官やってるなと。
このまま、流れで任せても良いかもしれない。
その配役に、彼は十分な結果を示せているのだから。
「――それに……」
オレはふっとエリーの顔を思い出す。
可憐にして、残虐な思考を持つあの不死族の女王を。
エリーが補佐官の立場なら、きっと事後にこう言うだろう。
『ふふっ、使者は殺しておきました。不死族からの使者とし、国王暗殺も命じておきました』
オレはその光景を脳裏に描き、ぶるりと身を震わせる。
和平交渉どころか、血みどろの戦争が引き起こされる……。
やはり、補佐官はこのままディアブロが良さそうだな。
不思議そうに見返す彼に、オレは満足気な笑みを返しておいた。




