持ち帰った成果
魔王城の執務室に、主要メンバーが集まっている。
オレ、メルト、シェリル、ディアブロ、それとリオンもだ。
オレはデスクに座り、両隣にメルトとシェリルを侍らせる。
そして、対面のディアブロとリオンに向けて声を掛ける。
「ラヴィの領地はまだまだだった。だが、これからの発展には期待が持てる」
「そうなのですか? 今でも魔王軍の財政に貢献していると聞きますが……」
オレの第一声に、ディアブロは戸惑った様子だった。
しかし、その瞳は興味深そうにオレを見つめていた。
「あの地は確かに基盤が整っていた。しかし、コンテンツが不足していたのだ」
「コンテンツ、とは……? 一体、何が不足していたのでしょうか……」
再びディアブロが困った様子を見せていた。
つい発してしまった、コンテンツと言う言葉が聞き慣れない様だ。
オレは内心で反省しつつ、言葉を選んで説明を続ける。
「箱としては素晴らしい街だが、その中身がスカスカなのだ。貿易と睡眠だけの街など、歪過ぎると思わんか?」
「あそこは、夢魔族の領地ですからね。しかし、改めて言われれば確かに……」
今度はディアブロも、納得の様子を見せていた。
オレはほっとしつつ、かの地でのやり取りを思い出す。
「まず、街にはカフェや劇場等を増やす。それにより、より華やかな街へと生まれ変わるだろう」
「なるほど。そうやって、訪れた者達が消費を行うと……」
仕事で来たとは言え、出張先への旅行気分はあるはずだ。
稼いだお金で、少しぐらいは贅沢だってしたいだろう。
それに何より、オレ自身がメルトとそういう場所に立ち寄りたい。
「更には大きな公園――もとい、広場を建設する予定だ。そこでは場所を貸し、思い思いの活動を許す予定だ」
「バザールとしての利用でしょうか? 利用イメージがピンと来ませんね……」
こちらに対しては、あまり良い感触を示してくれない。
オレは慌てて、ディアブロに対して補足説明を入れる。
「そういう使い方もある。だが、メインの目的は個人の大道芸や、様々な修練に使う運動場だな。後は春に一面の花が咲き、人々を集めた宴会場としても活用する予定だ」
「普段から人を集める……。様々な技術の習得……。大規模な催し物……。――駄目ですね。私などでは行きつく先が、想像も出来ません……」
ディアブロには何やら、悔し気な表情を浮かべている。
余り深く考えず、楽しそうと思って貰えれば良いのだが……。
そう思った矢先に、おもむろにリオンから意見が飛び出した。
「何やら、面白そうな事を始めようって訳ですな。それなら、闘技場とかも作れやせんかね?」
「ほう、闘技場か……?」
武闘派の獣人族らしい意見だとは思う。
しかし、その意見には耳を傾ける価値があるだろう。
オレの世界の古代ローマでも、コロッセウム等が存在したのだ。
獣人族に限らず、面白い見世物となる可能性がある。
「うちの連中が、腕試しをしたがってましてね。披露出来る場所があれば、喜ぶと思うんですわ。人族の王国にも、そういう施設があるって聞いた事がありますしね」
「だが、あれは人族の奴隷を、戦士として戦わせる場所だ。魔族の国では、奴隷は認めていないから無理だろ?」
リオンの意見に、メルトが横槍を入れる。
その表情は、不機嫌そうに歪んでいた。
奴隷という制度自体が、メルトは認めたくないのだろう。
しかし、リオンが言いたい事は、そういう事では無いはずだ。
「……よし、ラヴィに闘技場を作らせよう。ただし、出場選手は有志の立候補者。名誉や賞金目当てに、人が集まる仕組みを考える。この辺りは、ラヴィとまた相談だな」
「さっすが、大魔王の旦那! 話が早くて助かりますぜ!」
嬉しそうな笑みを浮かべるリオン。
今度はメルトも、納得した様に頷いていた。
すると、今度はシェリルが横からそっと意見して来る。
「それで、ご予算はどの様に……。城の金庫から、黄金を出す必要が御座いますか?」
「いや、ラヴィには宝石類を渡し、不足があれば連絡する様に伝えてある。連絡があれば、またオレが資金は用意しよう」
オレの答えを聞き、シェリルがほっと息を吐く。
どうやら、オレの答えで安心してくれたみたいだ。
まあ、シェリルはこれまで、資金繰りに苦労していたらしい。
今後は彼女に心配させず様に、資産運用も真剣に考えねばな。
「まあ、そういう訳で、あの地は更に活性化するだろう。そして、あの地が潤えば、魔王国全体もより活性化するだろう」
「はっ! まさに、大魔王様が仰られる通りかと……!」
ディアブロが頭を下げ、深いお辞儀をしていた。
その態度と表情から、オレに対する評価が上がったと察する事が出来た。
言うべきでは無いが、切っ掛けはメルトとのデートスポットだった。
それが、こういう形になった事は、幸運だったと思う事にした……。




