都市再建計画
フロードから受け取った手紙は、一先ず対応を保留する事にした。
あれは魔王城に戻った後、シェリルやディアブロと相談が必要だろう。
それはさておき、オレはローズの領地を堪能しようと画策していた。
そう、この旅のメインイベントと言える、メルトとのデートである。
しかし、ここで残念なお知らせがある。
旅の終了を告げる、残酷なお知らせである。
ローズの領地には都市が一つで、その都市には宿と取引所しかない。
このローズ・パレス以外に、デートスポットが無かったのだ……。
――なのでオレは発想を切り替えた。
無ければ作ってしまえば良い。
むしろ、オレの理想のデートスポットを作る機会とも言える!
「ねえねえ、大魔王様~! ここを公園にしちゃうの~?」
「ねえねえ、大魔王様~! 公園何てどうして作るの~?」
現在のオレは、客間のソファーに腰掛けている。
そして、オレの両隣には、小学一年生程の姉妹が身を寄せている。
彼女達はまだ生まれたてのサキュバスらしい。
ある程度成長するまでは、ラヴィの元で育てられるそうだ。
オレはテーブル上の地図を指さし、姉妹に説明を行う。
「この公園を憩いの広場にする。普段はスポーツや大道芸を行える様にし、春の時期には花見が出来る様にしたい」
「あらあら、花見って何かしら? 何だか、素敵な響きがするんだけど?」
テーブルを挟んで向かいより、中性形態のラヴィが尋ねて来る。
興味津々といった様子で、オレの指さす地図を眺めていた。
「大通り沿いに、花が咲く木を植える。そして、一面を一色に染め上げる。それを見物として、宴会で盛り上がるのだ」
「みんなでパーティだ!」
「何だか楽しそうだね!」
オレの立てる計画に、サキュバス姉妹が盛り上がる。
オレの腕に抱き着きながら、先程からずっと騒いでいた。
そして、腕に感じる柔らかな物に、オレは内心で動揺していた。
見た目は幼い子供なのに、この不似合いな物は何なのだろう……。
「おい、ユウスケ。あまりデレデレするな」
「い、いや、デレデレなどしていないぞ?」
ローズの隣に腰掛けたメルトが、オレの事を冷たく睨んでいた。
滅多に見るない不機嫌な姿に、オレの動揺は益々激しくなる。
そんなオレ達のやり取りを見て、ラヴィがクスクス笑っていた。
「あら、メルト様ったら。もしかして、焼きもちですか?」
「なっ、何を言う……! そんな訳が無いだろうが……!」
ラヴィの言葉に慌てた様子のメルト。
否定と同時に腕を組み、そのままそっぽを向いてしまう。
すると、左右の姉妹もニヤニヤと笑みを浮かべる。
わざとらしくオレに擦り寄り、メルトへ挑発的な言葉を投げる。
「あれれ? お姉ちゃんのお顔が真っ赤だよ~?」
「どうしたの? 私達子供だからわかんないね?」
そっぽを向くメルトに対し、姉妹のニヤニヤが止まらない。
ジロジロと無遠慮に、メルトの横顔を観察し続ける。
すろと、メルトはあっさりキレてしまう。
「い、いい加減にせんか! 大人をからかうんじゃない!」
「「きゃ~! お姉ちゃんが怒った~!!!」」
逃げる姉妹に追い掛けるメルト。
そこそこ広い部屋なので、鬼ごっこが始まってしまう。
その様を呆れて見ていると、ラヴィが楽しそうな笑みを浮かべる。
「うふふ、ご馳走様。本当にメルト様は、からかい甲斐がありますわね?」
「メルトをあまり怒らせるなよ? あれでも『元』魔王なのだからな……」
見ていると姉妹の片割れが捕まっていた。
小脇に抱えて、もう一人と追いかけっこが続いている。
その様子を見ていると、ラヴィの眼差しが優しい物へ変わって行く。
「本当に『元』なんですわね……。すっかりお変わりになられて……」
「メルトが変わった? それは、どういう意味だ?」
オレの知るメルトは、出会ってから変わりが無い。
むしろ、今の状態では無いメルトが想像出来ない。
オレがじっと言葉を待つと、ラヴィはふうっと息を吐いた。
「以前のメルト様は、研ぎ澄まされた刃……。或いは、手の付けられない猛獣でした……」
「あのメルトが猛獣だと……?」
美しい工芸品という意味なら、研ぎ澄まされた刃はわかる。
凛としていて、誰よりも美しい輝きを放っているからな。
しかし、手の付けられない猛獣?
オレの知るメルトとは、まったく違う様に思われるが……。
「身命を賭して、悲願を叶える。全てを捨てて覇道を歩む。そういう、お方でしたね……」
「そうなのか……?」
確かにメルトは、全魔族の幸せを求めている。
その為に、自分の人生を捧げようという意思は感じさせる。
だが、覇道を歩む存在かと言えば……。
「――いや、そうか……」
オレはメルトとの出会いを思い出す。
オレに打ち負かされ、兜を脱ぎ捨てたあの瞬間を。
メルトは頭を下げ、オレにこう懇願して来たのだ。
『抵抗せず、この首を差し出す! それでどうか、同胞達の命だけは助けて欲しい!』
あの時にオレを見つめた、メルトの瞳の輝きだ。
あの輝きに、オレは一目惚れしてしまったのだ。
メルトの魂を見た気がした。
その強い意思に、オレは憧れを抱いてしまったのだ……。
今更になって、オレはその事実に気が付いた。
オレが呆然としていると、ラヴィが優しく語り掛けて来た。
「メルト様の事も、どうぞよろしくお願い致します」
「――言われるまでもない。必ず幸せにしてみせる」
オレの視線を受けたラヴィ、満足そうに頷いていた。




