最優先事項
魔王城の食堂で料理を振る舞って貰った。
料理はどれも豪勢で、魔族の腕前も馬鹿にならないと唸ってしまった。
まあ、一か月ぶりのまともな料理だからな。
五人前を食べれてしまったのも無理は無いという物だろう……。
「そ、そろそろ、お腹は満たされたでしょうか?」
「ああ、腹八分目と言うしな。後は夕食を楽しみにしよう」
シェリルの問いに、オレは満足げに返事する。
まだまだ食べれなくは無いが、少しは遠慮もしておかないとな。
しかし、何故だかシェリルの頬が引き攣っていた。
まあ、それは良いかと思い、オレは別の質問を投げ掛ける。
「それで、メルトはどうしたんだ? 彼女も腹が減っているだろう?」
「メルト様は就寝中です。流石に疲れて、食欲が無いそうです」
シェリルの冷たい視線がオレに向けられる。
どうやら、彼女はまだオレの事を誤解しているらしい。
オレがメルトに対して、無体な扱いを行うと思っているらしい。
「メリルがもう無理と言う度にヒールで癒した。彼女の体力は全快だぞ?」
「に、肉体の疲労は癒せても、精神の疲労までは癒せませんので……」
シェリルの言葉が微かに震えていた。
その目には何故か、怯えの色が滲んでいる気がした。
……いや、きっとオレの気のせいだろう。
今の会話で、シェリルが怯える理由なんて無い訳だしな。
「それで、オレの元へやって来た理由は? 何か話があるのだろう?」
彼女は魔王四天王という、役員っぽい肩書も持っている。
忙しいな立場なのだろうと、流石のオレも理解している。
そんな彼女が、時間を置いてオレの元へとやって来たのだ。
恐らくは、ただの世話話をしに来た訳では無いはずだ。
「ええ、大魔王様に今の魔王領の状況を説明しに参りました」
「魔王領の状況? それは、急いで知るべき事なのか?」
シェリルは何やら焦って動いている気がするな。
オレに対して、何かをさせる気ではないだろうか?
オレは前の世界で、何度となく他人に利用されてきた。
その経験から、オレの本能が警戒しろと警鐘を鳴らしていた。
「ええ、大魔王様には魔王領を一早く治めて頂きたく。……これは、大魔王様の望みに関わる話です」
「オレの望みに繋がる? それは、一体どういう意味だ?」
警戒すべきとわかるが、その話を聞かない訳にはいかない。
今のオレの望みと言えば、メルトに関わる事と思われる。
その話を聞かず、メルトに何か起きては問題である。
……もっとも、ただオレを利用する気なら、きっぱり断るつもりだが。
「戦争で疲弊し、国が荒れた状態では行えないでしょう? 大魔王様とメルト様の結婚式が」
「――シェリル、何をしている! 今すぐ詳細をオレに伝えろ!」
オレはシェリルの事を誤解していたらしい。
彼女はオレとメルトの仲人役を買って出る恩人ではないか。
そして、さっきまでのオレは、何を呑気に飯を食っていたのだ。
今のオレには、最優先でやらねばならぬ事があると言うのに……。
「全ての障害はオレが取り除く。一日でも早く、式を執り行うぞ」
「し、承知しました、大魔王様。全ては御身の御心のままに……」
シェリルはオレに、深々と頭を下げた。
その紳士な姿から、彼女もオレの結婚を望んでいるとわかる。
この地に辿り着き、何と心強い味方を得られた事だろう。
この世界に来てから、ここまで親身な人物が他にいただろうか?
恐らくはこれも、女神様による導きなのだろう。
オレは心の中で、女神様へと感謝の祈りを捧げるのだった。