中性
ほろ酔い状態でラヴィと雑談を続けていた。
すると、唐突にメルトが起き上がった。
「ふあぁ、良く寝た。よしローズ、次は風呂を借りるぞ!」
元気はつらつと宣言するメルト。
まるで自分の家の様に、自由な振る舞いである。
しかし、ラヴィはクスクスと笑う。
そして、優しく微笑んでメルトへ問う。
「あら、今日はハイペースね。お背中も流しましょうか?」
「ふむ、そうだな? ならいつも通りに、頼むとしようか」
二人のやり取りにギョッとする。
先程の言葉は、普段から一緒に風呂に入る関係に聞こえたからだ。
オレはラヴィの体へと視線を向ける。
紫のドレスに包まれる体は、かなりのゴリマッチョである。
獣人族ですら羨むのではというボディである。
ラヴィの中身は女性っぽいが、これは倫理的にどうなのだろう?
オレが首を捻っていると、メルトが不思議そうに尋ねて来た。
「どうした、ユウスケ? 風呂に入るなら、お前は男風呂に入れよ」
「ふふふっ、それでは私はメルト様と、女風呂へご一緒致しますね」
さも当然の様に、席を立とうとする二人。
オレは思わず、メルトの腕を掴み止めてしまった。
「そ、その……。ラヴィは女風呂に入って大丈夫なのか?」
オレの問い掛けに、メルトは一瞬眉を顰める。
しかし、何かに気付いた様子で、ローズに対して指示を出す。
「ああ、そうか……。ローズ、一応女性形態になってくれ」
「承知致しました。大魔王様は、規則に厳しいのですね?」
ラヴィはオレへと笑みを向ける。
そして、にゅにゅっと体が細くなる。
一瞬の出来事に、オレは唖然となる。
気付くとラヴィが、妖艶な美女へと変身したからだ。
例えるならば、某怪盗マンガの不二子が近い。
フィットしたドレスにより、グラマラスな体形も浮き上がっていた。
「別に中性形態でも問題無いと思うがな。とはいえ、規則では女しか入れん事になっている」
「規則を定めたのが私ですからね。周囲の目を気にするなら、模範は示すべきと思われます」
呆れ顔のメルトと、楽しそうな笑みのラヴィ。
二人の視線に戸惑いつつ、オレはラヴィへ問い掛ける。
「ラヴィは、性別を自由に変えられるのか?」
「はい、夢魔族の体は仮初の物です。自由に変える事が可能で御座いますよ」
そう言うと共に、ラヴィの体が再び変化する。
今度はやや筋肉質な体の、精悍な顔を持つ男性となった。
例えるならば、長く活動するアイドルグループのボーカル。
ドラマの俳優でも通用しそうな、かなりのイケメンである。
「こちらが男性形態です。お客様のご要望によっては、この形態を取る事も御座いますね」
「なるほどな……」
女性客の接待を行う場合と言う事だろう。
この顔で酒を提供するなら、完全に売れっ子ホストとなれる。
オレが感心していると、ラヴィは再び変身する。
次は見慣れたゴリマッチョ姿であった。
「要望が無ければ、普段は中性形態です。私にとっては、最も馴染む姿で御座います」
「うむ、やはりローズはその姿だな。私としても、中性形態が一番しっくりと来るぞ」
二人の会話にオレはこめかみを抑えて考える。
中性の定義が何だったか、自信が無くなった為である。
女性形態はわかる。
誰が見ても、あれは女性の姿であった。
男性形態もわかる。
誰が見ても、あれは男性の姿であった。
しかし、中性形態は何だ?
誰が見ても、あれを中性の姿と判断するのか?
悩むオレの姿を見て、ラヴィは何かを察したらしい。
メルトに向かって、指を立てて説明を行う。
「恐らく、大魔王様の国では文化が違うのでしょう。魔族と人族では、感性に違いが御座いますので」
「なるほど、そういう事か。獣人族や不死族相手にも、ユウスケはよく戸惑った様子を見せていたな」
そういう事なのだろうか?
この納得いかない感情は、人族故なのだろうか?
或いはこれは、異世界故の違いなのかもしれない。
そう考える事で、オレは無理やりに納得する事にした。




