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快楽の街

 ラヴィの住まいは、薔薇に囲まれた白亜の宮殿だった。

 その名も『ローズ・パレス』と言うらしい。


 そして、その宮殿を囲む様に、綺麗な街並みが広がっている。

 この街がラヴィの統治する、夢魔族の活動拠点である。


 オレはその街並みを眺めつつ、馬車にて宮殿へ到着する。

 薔薇に囲まれた宮殿前には、見覚えのある偉丈夫が待ち構えていた。


「大魔王様、お待ちしておりました」


 馬車から降りるオレに、ラヴィが頭を下げていた。

 そして、その背後には執事とメイドが一人ずつ。


 どちらも、見目麗しい人間の姿だった。

 しかし、ラヴィの従者なので、恐らくは夢魔族なのだろう。


 そして、今日のラヴィは、スラッとしたドレス姿だ。

 不思議と似合うのが、何となくだが納得いかない……。


 まあ、それは余談なので脇に置いておく。

 オレはローズの前で足を止め、ラヴィに対して問い掛ける。


「車内から街の様子を眺めていた。しかし、あれはどういう事だ?」


「どういう事とは……。一体、何の事でしょうか?」


 ラヴィは頭を上げ、不思議そうに尋ね返す。

 問い掛けの意味が、理解出来ないみたいだ。


 そんな態度に苛立ちつつ、オレは厳しい言葉を投げ掛ける。


「街には宿と取引所しか無かった。ここは、快楽の街と聞いたのだが?」


「え、ええ……。確かにその通りですが、何が不味かったでしょうか?」


 ラヴィは困った表情で首を傾げている。

 オレはやれやれと首を振り、ラヴィに対して指を突き付ける。


「快楽の街が聞いて呆れる。娯楽施設も無く、客をもてなす気があるのか?」


「落ち着け、ユウスケ。お前はローズの領地に、何を求めようと言うのだ?」


 何故かメルトが、冷たい視線で見つめていた。

 その視線の意味が、オレには理解出来ないな……。


 オレが求める物など一つしかない。

 そんなものは、デートスポットに決まっているだろ?


 しかし、オレが返事を返すより、ラヴィの方が早く動く。


「聞き捨てなりませんね。我々の街が、快楽の街に相応しく無いと仰るのですか?」


 ラヴィはピリリとした空気を放っている。

 オレが静かに頷くと、ラヴィは眉を寄せて説明を行う。


「昼は人族と魔族の交易に利用され、夜は宿にて最高の睡眠を提供する。それが、この街の在り方で御座います」


「ふむ、それで?」


 その辺りの話は、メルトからも道中に聞いていた。

 しかし、実態がこれ程までに酷いとは考えていなかった。


 オレの声が一段と低かったからだろう。

 ラヴィはやや怯んだ様子で、オレへと更に説明を続ける。


「宿の食事もお値段以上、ベッドも拘り抜いた品々。そして、お客様の就寝時には、望まれる夢を提供しております。ご来訪のお客様方には、とても好評のサービスです。それの何が、問題だと仰るのでしょうか?」


 ラヴィの真剣な眼差しから、自らの街に誇りを持つとわかる。

 オレの言葉に、その誇りが傷付けられたのだろう。


 しかし、オレはラヴィに言ってやらねばならない。

 その誇りこそが、彼女の慢心であるという事を……。


「昼は交易用だと言ったな。だが、疲れた際に休むカフェは? 空き時間を楽しむ施設は? 日中の客は、どうでも良いと言うのか?」


「そ、それはっ……?!」


 オレの言葉に、ラヴィの顔がはっとなる。

 ようやく、彼女にもオレの伝えたい意図が伝わったらしい。


「夜のサービスに自信があるのは良い。だが、サービスに限界は無いのだ。それとも、お前の限界はこの程度なのか?」


 オレの言葉を受け、ラヴィはショックを受けた様に固まる。

 そして、ゆっくりと首を振った後に、オレに対して頭を下げた。


「大魔王様、申訳御座いませんでした。私は自惚れていた様で御座います」


「なに、気付けたのならそれで良い。この先の働きに、期待させて貰うぞ」


 ラヴィはバッと顔を上げる。

 その瞳には、強い驚きと尊敬の念が込められていた。


 オレがふっと微笑むと、隣のメルトが尋ねて来た。


「お前達は、一体何の話をしているのだ?」


 彼女は怪訝そうに、腕を組んで眉を顰めていた。

 どうやら、メルトには小難しい話だったらしい。


 オレとラヴィは顔を見合わせる。

 そして、互いにふっと笑みを浮かべ合った。

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