長期休暇(シェリル視点)
大魔王様より長期休暇を頂いてしまいました。
お戻りになられるまで、10日程度が掛かる見込みとの事です。
半日程度の休みなら兎も角、丸一日の休み何て滅多に無い。
ましてや数日も仕事が無い何て、ここ十年程は記憶にない……。
何もしなければ長いが、何かをするには短い期間。
何をするかと考え、ふと思い出した懐かしき修行時代。
「そういえば、まだ素材があった様な……」
私はクローゼットへと向かい、その扉を開く。
そして、足元に置かれた箱を漁ってみる。
すると、すぐに目的の品が見つかりました。
ゴーレム作成の練習に使う、ミスリル銀と核の魔石。
「久々に試してみますか」
私は成人したての頃、魔術師見習いとして修業を行っていた。
その頃に出会ったのが、同じく魔王を目指していたメルト様。
メルト様は初対面の私に対し、いきなりこの様に告げました。
『魔王たるもの、右腕に悪魔が必要だな。よし、そこのお前! 私について来い!』
――そして、拉致され、連れまわされ、尻拭いを行う日々。
泣きながら必死に着いて行くと、気付いた時にメルト様は魔王に。
私は知らぬ間に、四天王の地位に付く事になっていた。
……あれ、ちょっと待って?
私って別に、四天王に成りたかった訳じゃないよね?
どうして今まで、こんな必死に頑張り続けていたのだろう?
前に向かって走り続け、走る理由を考えていなかった……?
「――いえ、違います。きっと私は、大魔王様に出会う為に頑張って来たのです!」
私は自分に言い聞かせる。
そうでもしないと、私の人生が余りにも惨め過ぎるから……。
私は首を振って、過去の記憶を封印します。
そして、テーブルへと一抱えの素材を運びました。
「さて、どの様なゴーレムを作ってみますかね?」
ミスリル銀は魔力の通りが良く、様々な形への加工がしやすい。
形状や組み込む術式により、様々な用途のゴーレムを作る事が出来る。
とはいえ、これは練習用の素材である。
私のゴーレム制作スキルも、大した物ではありません。
精々が小物を運ぶ程度の、小型しか作れない訳ですが……。
「……いえ、いっそプレゼント用にしては?」
趣向を凝らした玩具として、大魔王様へ献上する。
ほんの少しだけ楽しんで貰い、私が休んだと知って貰うのだ。
そして、大魔王様に贈るなら、その形状は自ずと決まる。
「――小型ゴーレム・メルト様仕様」
私の才能では、芸術的な作品は作れません。
あくまでも、メルト様の特徴を捉えた姿で良いでしょう。
竜人族の特徴である、角・羽・尻尾である。
後は髪型や体形を似せれば、それらしい物が作れるはず。
私はメルト様の姿を脳裏に浮かべる。
そして、魔力操作でミスリル銀の形状を変化させて行く。
――バンッ……!!!
「おい、シェリル! どういう事だっ!!!」
「ヒャッ……?!」
勢い良く開かれた部屋の扉。
掛けておいた鍵は、役目を果たせず壊されたらしい。
何事かと視線を送ると、部屋に踏み込む一人の男。
獅子の頭を持つ獣人リオンが私に駆け寄って来た。
「何故、お前が四天王を降ろされる! 大魔王様の決定なのかっ?!」
「な、何なんですか! 少し落ち着いて下さい!」
しかし、この男は私の話なんて聞いていない。
私の肩を力強く握り、勢い任せに私へと叫ぶ。
「人形遊びなんてお前らしくもない! 仕事が無いならオレの所へ来い!」
「に、人形遊びではありません! これは、大魔王様への贈り物ですよ!」
人形遊びをしていたと思われた事に、私は赤面するのを感じてしまう。
手元のメルト様型ゴーレムを見れば、そう思われても仕方ないのだが。
……いや、それ以前にリオンは私に何と言った?
私には人形遊びが似合わないと、そういう事を言わなかったか?
釈然としない物を感じるが、そこはぐっと堪えておく。
それよりも、大切な事をリオンに伝えないといけないからだ。
「それと、私は大魔王様の秘書となりました。貴方の元で働く気はありません」
「大魔王様の秘書? それじゃあ、クビになって干されてる訳じゃないのか?」
私の言葉を聞いて、ようやく落ち着きを取り戻すリオン。
私はやれやれと首を振り、胸を張って彼に伝える。
「少々、休暇を頂いただけです。私は今後、大魔王様の隣でお仕えするのです」
大魔王様の秘書である事を、私は自信を持ってリオンへ伝える。
何せ大魔王様直々に、『お前が必要だ』と言われたのですからね。
そして、私の自信が伝わったのでしょう。
リオンは嬉しそうに相好を崩し、豪快に笑い声を上げる。
「はははっ、そういう話だったか! 流石は大魔王様だ! 良くわかっていらっしゃる!」
リオンはようやく、私の肩から手を放してくれました。
ジンジンと痛みを感じるので、きっと痣になっているのでしょうね……。
とはいえ、駆け込んでくれたリオンの想いは伝わっています。
私の身を案じてくれた彼に、文句を言う気にはなれませんでした。
「そういや、それはメルト様か? 素材はミスリル銀だよな?」
「はい、その通りです。手元にあった素材で作成しております」
私の手元をしげしげと観察するリオン。
未完成な上、造形に自信が無いので恥ずかしいのですが……。
私が戸惑っていると、リオンは徐に手をポンと打つ。
「大魔王様への贈り物だろ? 城にオリハルコンとアダマンタイトがある。取って来るから、ちょっと待ってな!」
「――え? ちょ、ちょっと、リオン……?!」
私の話を聞かず、リオンは部屋から飛び出してしまう。
恐らくは、大急ぎで自分の城へと戻って行ったのだろう。
しかし、オリハルコンにアダマンタイト?
そんな物を加工するのは、かなり至難の業なのですが……。
私は頭を抱えて席を立つ。
そして、ゴーレム用の魔導書を求め、魔王城の書庫へと向かうのだった。
第六章が終了となります。
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