表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/131

親友

 オレは気持ちを落ち着かせ、寝室へと移動した。

 すると、そこには探し人である、メルトの姿があった。


 メルトは風呂上りらしく、バスローブ姿であった。

 腰に手を当て、牛乳を飲む姿も中々にそそられる……。



 ――だが、オレは気持ちを切り替え、メルトに告げる。



「シェリルの事で話がある。相談に乗って貰えるか?」


「シェリルの事で……? ――わかった、話してみろ」


 不思議そうな表情は、すぐに引き締まった物へと変わる。

 オレの態度を見て、真剣な内容と気が付いたのだろう。


 木製のテーブルを挟む形で、オレ達はそれぞれ席に着く。


「シェリルが悪魔達から仲間外れにされている。その状況は気付いているか?」


「な、何だと……? いや……。しかし、状況的には理解出来なくはない……」


 驚いた表情を浮かべ、続いて沈痛な面持ちとなる。

 状況に気付いてはいなかったが、理由は思い当たるらしい。


 メルトは難しそうな表情で、オレに対して考えを口にする。


「シェリルは四天王から降格させられた。周囲は落ちこぼれたと判断するはずだ」


「シェリルが落ちこぼれた、だと……?」


 元々、役員であった者が、平社員へ降格した様なものだろうか?

 もしそうだと考えるなら、今の状況も理解する事が出来る。


 四天王はレベルによって決まると聞き、オレは交代を軽く了承した。

 しかし、その決定は周囲にとって、思う程に軽い物では無かったのだ。


「逆にぽっと出のディアブロが四天王の筆頭となっている。周囲からすれば、ユウスケのお気に入りと映るはずだ」


「そういう、ことなのか……」


 オレの事を良く知らぬ者は、結果だけで推測するだろう。

 オレがシェリルを追い出し、ディアブロを重役に据えたと。


 最高責任者に厚遇される者と、冷遇される者がいるとする。

 周囲の者達は、どちらに着いて行こうと思うだろうか?


「オレが、全ての原因という事か……」


 オレは自身の迂闊さに歯噛みする。

 軽々しく大魔王様となり、責任の重さを理解していなかったのだ。


 ……だが、反省は後からでも出来る。

 今するべきは、犯したミスをどう挽回するかである。


「シェリルの事を、どうすべきだと思う? ディアブロの副官とすべきなのか?」


「ディアブロの副官? いや、そういう指示なら、奴は城を去るかもしれん……」


 メルトの答えに、オレはショックを受ける。

 かつて会社を去った、同僚達の姿を思い出して。


 彼等は絶望して会社を去って行った。

 あの悲痛な思いを、オレがシェリルに与えてしまうのか?


 動揺で言葉の出ないオレに、メルトは真っ直ぐな視線を向ける。


「私が魔王を目指して修行した頃より、シェリルは私に仕えてくれた。私にとっては腹心であると同時に、掛け替えのない親友でもあるのだ」


 たった二人で立ち上げた会社。

 それが上場し、大企業へとのし上がるイメージが浮かんだ。


 社長の座をオレに譲ったとしても、盟友への思いは変わらないはず。

 メルトからしても、この様な終わり方は望む物では無いはずである。


「私に出来るのはこれだけだ……。頼む、ユウスケ! シェリルの事を何とかしてくれ!」


 オレに向かって、メルトは深々と頭を下げる。

 頭を下げた姿勢で、オレからの返事をじっと待つ。


 その姿を見て、オレの思考がクリアになって行く。

 この状況で、オレが言うべき言葉は一つしかない。


「――ああ、任せろ。メルトが望むなら、オレがその願いを叶えよう」


 オレが大魔王となったのは、メルトと幸せな未来を築くためだ。

 彼女に悲しい思いをさせるのは、本末転倒も良い所と言える。


 ならば、成すべき事も唯一つ。

 メルトが満足する形で、事態をクロージングさせるだけだ。


 成すべき事が決まったなら、後は行動に移すだけ。

 そう思い、立ち上がろうとしたオレに、メルトの腕が伸びて来た。


「メルト? 何を――うぶっ……」


 後頭部を掴まれ、強引に引き寄せられた。

 そして、驚くオレの口を、メルトの唇が塞いでいた。


 突然の熱烈なキスに、オレは目を白黒させる。

 すると、メルトは顔を離し、二っと笑みを浮かべた。


「信じているぞ! ユウスケ!」


「――ふっ、少し出掛けてくる」


 オレは内側で暴れる野獣を、理性の力でねじ伏せる。

 そして、オレは席を立ち、シェリルの部屋へ向かう。


 今のシェリルは、精神が危うい状態と思われる。

 一刻も早く誤解を解いて、立ち直らせる必要があるのだ。


 オレは後ろ髪を引かれる思いでメルトと別れる。

 そして、今夜は朝まで寝かさないと、硬い決意を抱くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ