方針会議(前半戦)
昼食を挟み、方針会議を引き続き行う。
会議の場所は魔王専用の執務室である。
部屋の奥のには、大きな机が用意されている。
そのテーブルの主は、当然ながらオレである。
そして、左右にはメルトとエリーが並んで立つ。
テーブルを挟んだ向かいには、ディアブロが立っている。
そして、何故だかシェリルの姿が見当たらない。
疑問に感じながらも、ディアブロが話を進め始める。
「では、大魔王様。まずは現状をご報告させて頂きます」
「う、うむ。それでは頼む……」
オレが鷹揚に頷くと、ディアブロが微笑みを浮かべる。
彼は満足気な口元を見せ、オレに対して説明を始める。
「魔族と人族の国境ですが、停戦状態が続いています。大魔王様の親書が届き、王国が方針を決めるまではこのままかと」
「ふむ……。方針が決まるまで、どの程度かかると思う?」
オレが王国から国境まで進むのに15日掛かった。
それを考えれば、手紙は既に届いている頃だろう。
問題はその手紙を受け取った後の会議である。
和平に応じるか否か、その返答をどの程度待つかである。
「恐らくですが、最速で会議に五日。返答が届くのに五日は必要かと」
「なるほどな。最速で十日を見込めば良いか……」
ならば、次にその期間で何を行うべきかだな。
それ程多くの日数で無い為、取れる行動は多くなさそうだが。
オレが視線を向けると、ディアブロが望む説明を行ってくれる。
「食料や軍備に問題は御座いません。まず行うべきは、魔王国の基盤固めでしょう。西方領の対応は、特に早急な方針決定が必要かと」
「元々、メルトと距離を取っていたのだったな。今の彼等の動向はわかるか?」
オレの問い掛けに、ディアブロの口元が二っと裂ける。
恐らくだが、彼としてはその問いを待っていたのだろう。
「捕虜より情報を集め終えております。各地の領主は、概ね大魔王様の情報を求めている状況です」
「ああ、オレがどの様な人物がわからないしな。それでは彼等も、対処を決めかねるか……」
魔王であるメルトを下した以上、より強い者とは考えているだろう。
しかし、人間の勇者であるオレが、どの様に統治を行うか不明なはずだ。
今の状況では様子見程度しか出来る事がない。
それを考えると、オレの方から彼等にアポを取るべきか?
オレが腕を組んで考えていると、ディアブロが徐に三本指を立てる。
「西方領は大きく分け、三つの種族が支配しています。一つ目は鬼人族。二つ目は魚人族。三つ目が竜人族です」
「ほう……?」
オレはメルトに視線を送る。
確かメルトは竜人族だったなと思い出した為だ。
しかし、メルトは涼しい表情で微動だにしない。
特に彼女から言いたい事は無いみたいだ。
「まず、鬼人族はゴブリンを中心とする種族。支配階層はホブゴブリンで、知能の高さが特徴的です。魔王国内では最も経済が発展し、税収を求めるなら支配は必須と言えます」
「奴らは金の力でオーガを雇っている。武装も整えさせ、戦力としても侮る事は出来ない」
そこで初めてメルトが口を開く。
恐らくはゴブリンと思い、侮るなと言いたいのだろう。
「大魔王様であれば武力による支配も可能かと。彼等への対応はどの様にお考えでしょうか?」
「……まずは、領主と会って話してみるか。手を取り合える相手か、見定める必要があるしな」
まっとうな社会人としては、まずは会話から始めるべきだ。
いきなり暴力を振るう等、相手からしたら恐怖以外の何物でもない。
オレは隣のエリーに視線を向ける。
彼女は視線に気付き、オレに可憐な微笑みを返して来た。
「領主はゴブリン・キングとなります。すぐに登城する様、通達を出しておきましょう」
「いや、その必要は無い。彼等の領地も見ておきたいしな。オレの方から伺うつもりだ」
オレの返答に、ディアブロは一瞬戸惑う。
しかし、すぐに深い笑みを浮かべて一礼をした
「では、その様に手配しておきましょう……」
「挨拶に伺う旨を、丁重に伝えておいてくれ」
何となく邪悪な笑みに見えたのは、ディアブロが悪魔故だろうか?
見た目で判断するのは良くないので、オレは内心で反省しておく。
オレは満足気な笑みを、ディアブロに対して向ける。
そして、方針会議は後半戦へと突入する。




