更なる仕打ち
シェリルを慰め、ようやく彼女も落ち着いた。
すると、エリーがふうっと息を吐いて問い掛けて来た。
「あ~、面白かった。……それで、パパ。補佐官は私で良いのかしら?」
「ふむ、補佐官か……」
補佐官というのは、オレの補佐をする者だよな?
オレに意見も出来る為、重要な立ち位置だと思われる。
そう考えると、エリーはそれに相応しいのだろうか?
知性が上がり、鋭い意見も出せる様になってはいるが……。
オレは隣に立つシェリルを見る。
彼女は憑き物が落ちた様に、すっきりした顔をしていた。
玉座の隣で立つメルトにも視線を向ける。
彼女は気落ちした様子でションボリしていた。
オレが腕を組んで悩んでいると、その考えに意見する者が現れる。
「お待ちください、大魔王様。補佐官は他に、相応しい者がおります」
「む……?」
声の方へ視線を向けると、一人の人物が入室していた。
その姿を見て、オレは咄嗟に名前を思い出す。
「……ディアブロ、だったか?」
「はい、その通りで御座います」
彼はオレの元へと歩み寄る。
そして、オレの足元で跪いた。
「初代魔王様を支えたこのディアブロ。大魔王様に仕えるべく推参致しました」
「オレに仕える? お前はシェリルに仕えていたはずでは?」
ディアブロは魔法のランプから現れた悪魔だ。
そして、そのランプはシェリルに贈った物である。
ならば、今の主人はシェリルではないのか?
隣のシェリルを見ても、驚いた様子でポカンと口を開いている。
ディアブロは僅かに顔を上げ、オレに向かって説明を行う。
「主人に相応しいか試験を行いました。しかし、彼女はその試験に不合格だったのです」
「え……?」
シェリルが呆然と呟いた。
だが、心当たりがあるのか、その表情が強張って行く。
そんなシェリルを一瞥し、ディアブロは辛辣な言葉を連ねる。
「問題が起きても見て見ぬ振り。部下の心が離れても動こうとしない。その様な者が、人の上に立てるでしょうか?」
「そ、そんな~……」
再び涙目となるシェリル。
傷心中な為か、言動が僅かに幼くなっている気がする。
そして、ディアブロは懐から何かの書類を取り出す。
それをオレに向けて、そっと差し出して来た。
「そして、優先順位の付け方も間違っている。大魔王様に何が必要か、まったくわかっておりません」
「――これは……」
見慣れぬ文字であったが、何故かスラスラと読む事が出来た。
恐らくそれは、女神マサーコ様の祝福による物だろう。
そして、驚いたの書類の中身だ。
そこには魔王軍の財政状況や戦力、西方魔族の統治状況等が記載されてあった。
「新たな王が誕生したのです。その王が何を求めるか知り、それを用意するのが補佐官の役割。領地経験が浅い者にも、その役割は荷が重いと思われます」
「――チッ……」
ディアブロの視線を受け、エリーが舌打ちをする。
確かにエリーは、これまで部下に全てを丸投げだったしな……。
皆の視線を受けたディアブロは、ゆっくりその場で立ち上がる。
そして、自らの胸に手を添え、自信満々に宣言する。
「そして、私はLv90の『悪魔王』。四天王筆頭も、私が相応しいと存じます。如何でしょうか、大魔王様?」
「ふむ、そうだな……」
かつて補佐官を務めた経験があるのだろう。
だからこそ、これ程までに自信を持って断言するのだ。
経験も、実力的にも申し分なし。
能力だけで判断するなら、ディアブロは相応しいのだろう。
「……いや、判断は保留だな。言葉だけで、信用する事は出来ない」
「――そうですか。いえ、それこそ統治者に相応しいご判断ですね」
一瞬、悔しそうに口元が歪んだ。
しかし、それも瞬時の事で、すぐに晴れやかな笑みが浮かぶ。
そして、シェリルを一瞥してから、オレに向かって再び尋ねる。
「ですが、四天王筆頭は私で問題御座いませんでしょうか? レベルで考えても、それが自然と存じますが……」
オレは判断に悩み、メルトへと視線を向ける。
すると、メルトは苦々し気に、オレへと頷いて見せた。
「魔王軍の慣例に従うなら、ディアブロの言い分は正しい。最も強い家臣に、四天王の肩書が贈られるのだから」
メルトはシェリルを大切に思っているはず。
それでも、反対意見が出てこないらしい。
つまり、誰もが納得する理由が無いのだろう。
シェリルを魔王四天王として留める為には……。
「そうか。ならば、本日よりオレの為に励め!」
「ははっ! 四天王に相応しき成果を必ずや!」
ディアブロは歓喜の笑みを浮かべ、オレに向かって頭を垂れる。
オレに仕える事に対しては、彼も抵抗が無いみたいだな。
オレは一息ついて、皆の様子を再確認する。
事態が余りに動いた為に、皆の反応が気になったからだ。
綺麗な仕草で跪くディアブロ。
苦々し気な表情を浮かべるメルトとエリー。
そして、ポカンと口を開き続けるシェリル。
「……ほぇ?」
間の抜けた声が漏れだした。
オレは思わず、シェリルから視線を逸らしてしまった……。




