魔王四天王筆頭
オレ達は揃って、玉座の間へ移動した。
オレは当然ながら玉座に座り、左右にメルトとエリーが並んでいる。
そして、シェリルは戸惑った様子で、エリーの事を見つめていた。
「あ、あの、大魔王様? そちらの女性は一体……?」
「ああ、彼女はエリーだ。『神酒ソーマ』の効果で成長したらしい」
オレの答えに、シェリルはポカンと口を開く。
そんなシェリルに対し、メルトが疲れた声で補足を加える。
「エリザベートは存在進化を果たした。恐らく、強さも私と同程度だろう」
「そ、それは……。メルト様は、歴代魔王でも強者に位置する言うのに?」
シェリルは悩む素振りを見せていた。
その視線がエリーを捉え、眉間を更に深くさせる。
十三歳からニ十歳の姿へと急に変わってしまったのだ。
だが、見た目の雰囲気からして、面影は強く残している。
現実を受け入れられぬシェリルに、エリーはクスクスと笑い掛けた。
「これまでは子供と思い、随分と手玉に取ってくれたわね? ――四天王最弱のシェリル」
「なっ……?!」
エリーの言葉に、シェリルが目を見開く。
そして、怒りというよりは、恐怖により顔を引き攣らせていた。
エリーは冷たい視線をシェリルから外し、オレに向かって優しく微笑む。
「序列一位はLv80のローズ。二位はLv75の私。三位はLv70のリオンで、最後にLv65のシェリル。――まあ、今では私が一位ですが」
「なるほどな。レベルの高さが、序列に直結しているのか」
魔王軍というだけあり、強さが物を言うのだろう。
そう考えると、指標としてはレベルがわかりやすい。
そして、オレは力を一割に封じてもLv99ある。
彼等の中では、最も強い存在として認められているのだろう。
……というか、今更だがLv99でも強すぎではないだろうか?
「なのにメルト様にすり寄って、魔王四天王筆頭? 随分と好き勝手してきたものね……」
「い、いえ……。それは、その……」
腕を組んで見下ろすエリー。
その鋭い視線に、汗をダラダラと流すシェリル。
「ローズとリオンは温厚ですしね。私もこれまでは興味無かったわ。――でも、これからは違う」
「ヒィッ……?!」
キッと睨まれ、悲鳴を上げるシェリル。
レベルの差が20もあると、ここまで立場が明確になるのか?
「大魔王様の就任後、その補佐役は私が務めます。序列一位の私に、何か不満があるかしら?」
「そ、そんなぁ~……。今日まで、ずっと頑張って来たのにぃ~……」
めそめそと泣きだし、その場に崩れ落ちるシェリル。
そんな彼女に、エリーは勝ち誇った表情で見下ろしていた。
見ていて何だか不憫になって来た。
どうした物かとメルトを見ると、彼女は任せろとばかり頷いた。
そして、シェリルを庇って、メルトがエリーを睨む。
「シェリルが弱い事は、自分が一番わかっている。それでも、彼女はずっと努力していた」
「ふぅん? どう努力したって言うの?」
メルトの言葉に、エリーが面白そうな視線を向ける。
その視線に対し、メルトは怯まず言葉を続ける。
「自分は知識担当だと言い張り、『知将』と自称し始めた。ずっと自分自身に、私は負けてないと言い聞かせて!」
「うぐっ……!」
胸を押さえて蹲るシェリル。
何やら、雲行きが怪しいのは気のせいだろうか?
「どんな雑用でも嫌な顔せず、率先して取り組んでくれた。自分がどれ程役立つか、私に必死にアピールしてな!」
「お、おい……。メルト……?」
メルトの表情は真剣そのもの。
決して、シェリルを煽っている訳ではないらしい。
しかし、シェリルは俯いたまま、ブルブルと震え出している。
「裏ではいつも、帳簿を睨んで溜息を吐き続けていた。それでも大丈夫と、表では部下達を激励していたのだぞ!」
「それ以上は止めてやれ。彼女の精神力はもうゼロだ」
メルトの腕を掴み、オレはゆっくりと首を振る。
すると、そこで初めてメルトは状況を理解した。
シェリルが床に突っ伏して、泣き崩れていた。
もう嫌だとか、何やら悲し気な呟きを漏らしながら……。
状況がわからず、戸惑った様子のメルト。
それに対し、腹を抱えて笑いを堪えるエリー。
余りにも余りな状況に、オレは玉座を離れてシェリルの元へ向かう。
彼女の肩にそっと手を置き、オレは極力優しく語り掛けた。
「今まで苦労したのだな……。その努力を、少なくともオレは認めよう……」
「だ、だいばおうざま~……!!!」
鼻水交じりの泣き声で、声にならない様子だった。
酷い泣き顔のシェリルは、オレに抱き着きオイオイと無く。
そして、我慢出来ずに笑い出すエリー。
その声を無視し、オレはシェリルの背中を優しく叩く。
その様な状況の中、ぽつりとメルトの声が聞こえた。
「え……? ど、どういう事だ……?」
動揺したメルトの声に、オレは何となく理解した。
彼女は優しい心の持ち主だが、不器用なタイプなのだろうと。
ならば、そのフォローは夫であるオレの役割だ。
そう考えながら、オレはシェリルを宥め続けるのだった。




