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悪魔族

 手もみしながら、横を歩くシェリル。

 彼女はオレの隣を歩き、城内の状況を説明する。


「魔王城も既に築千年。大魔王様がご不在の間に、改修工事を行いました。見てお分かりの通り、壁も床も新築同然となっております」


「確かに、言われて見れば……」


 魔王城の廊下を歩きながら、壁や床の様子を確認する。

 そこは傷一つ無い、磨き上げられた綺麗な状態となっていた。


 オレの認識でも、かつては歴史を感じさせる城であった。

 しかし、今となっては建ったばかりにしか見えない。


「今後は大魔王様の居住となります。新婚となるお二人の住まいが、見るからに古城というのも何ですからね」


「なるほどな。その気遣いに感謝しよう」


 シェリルに言われて、今更ながらに気付いた。

 大魔王となったオレは、この城の主人となるのだ。


 そして、妻のメルトも、ここは変わらず住まいとなる。

 折角の新居なら、ボロボロよりも綺麗な方が良いだろう。


 シェリルの言葉に納得し、オレは満足して頷く。

 しかし、背後を歩くメルトから、不満そうな声が漏れた。


「なあ、シェリルよ。これだけの人員と資材だ。どこから捻出した?」


 メルトの視線の先には、ずらりと並ぶ悪魔達の姿。

 オレ達を挟む様に、廊下の左右に列を成して頭を下げている。


 確かに百名を超える人員となれば人件費も馬鹿になるまい。

 メルトとしては、その資金の出所が気になるみたいだった。


 まあ、オレが預けた金塊を使ったのだろう。

 そう考えるオレに、シェリルは想定外の答えを返して来た。


「彼等は有志により集まった者達。資材も彼等が自ら調達しました。費用は一切掛かっておりませんが?」


「「なっ……?!」」


 驚くオレ達は足を止める。

 そして、シェリルはメルトへと振り向いた。


「そもそも、魔王軍の活動資金は、我々悪魔族が人材派遣で稼いでおります。彼等が各地で執事やメイドとして出稼ぎ、その仕送りで活動を続けておりました」


「なん、だと……?」


 余りに衝撃の事実である。

 オレはずらりと並ぶ悪魔達を、ただ茫然と見つめる。


「代々の魔王様に甲斐性は御座いません。支える物がいなければ、組織として機能しませんでした。それを支えて来たのが、我々だという事です」


 滅私奉公で支え続けて来たと言うのか?

 長年に渡って、魔王軍を支え続けて来たと言うのか?


 オレはすぐ隣で頭を下げる、一人の執事悪魔に視線を向ける。

 そして、彼に対して問い掛けた。


「何が、お前達をそうさせる……?」


 問い掛けに対し、執事悪魔が頭を上げる。

 そして、真っ直ぐに目を見つめ返して、こう答えて来た。


「魔王様を支える事が、我々の誇りだからです」


「――っ……?!」


 その真っ直ぐな答えに、オレは息が詰まる思いだった。

 誇りの為に生きる者を、初めて目にしたからだ。



 ――しかし、彼の瞳が一瞬揺れた。



 何か言いたい事がある様子だった。

 言うべきか迷う彼に、オレは話す様にと視線で促した。


「……それと、シェリル様より伺いました。この地に集えば、我々へ給与が支払われると」


「なん、だと……?!」


 その衝撃は、先程の比では無かった。

 彼等はこれまで、無給で働き続けていたのか……?


 オレはバッと背後へ振り返る。

 すると、メルトが慌てた様子で首を振った。


「や、やめろ! 私をそんな目で見るな! 私は知らなかったのだ! 魔王軍がそんな状況だったなど……!」


 どうやら、メルトも把握していなかったらしい。

 涙目になりながら、メルトは頭を抱えていた。


 そして、その隣では楽しそうにクスクスと笑うエリー。

 しかし、彼女も部下に給料を払っていないのだろうな……。


「……状況をご理解頂けましたか?」


「ああ、彼等の境遇は理解した……」


 問い掛けるシェリルに、オレは返事を返す。

 視線を向けると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。


「彼等をこの城で、お雇い頂けないでしょうか?」


 シェリルの問いかけで、ばっと視線がオレに集まる。

 悪魔達の懇願の眼差しに、オレは咄嗟に手で目を覆う。


「……彼等の要望を纏めろ。この職場に望む物を、順に叶えてやろう」


「「「だ、大魔王様っ! 我々、一生付いて行きます……!!!」」」


 涙声の者がいた。

 鼻をすする音が聞こえた。


 彼等の今までの境遇を思い、オレは滲む涙を必死に堪える。

 魔王軍という職場は、ブラック企業も真っ青であった……。


 そして、背後からメルトの泣き声も聞こえて来た。

 こちらは後で、個別で慰める事にしよう……。

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