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魔王城

 カボチャの馬車に揺られ、魔王城まで送り届けて貰う。

 それは良いのだが、気付くと同行者が一名増えていた。


 言うまでも無いだろうがエリーだ。

 彼女が魔王城まで同行すると言い出したのだ。


 その眼力は凄まじく、誰も止める事は出来なかった。

 賢さも上がったらしく、メルトは口論で負かされていた。


「ふふっ、到着したみたいね。パパ?」


「うむ、そのようだな……」


 左に座るエリーが、オレにしな垂れかかって来る。

 オレは気持ち右に逃げ、メルトに寄り掛かる形となる。


 その状況にメルトは眉を顰めるだけ。

 オレとエリーに対し、何かを口にしたりはしない。


「さあ、魔王城へ向かいましょうか?」


 馬車が止まると、エリーは自ら扉を開く。

 そして、オレの手を引き、馬車から共に降りる。


 場所は既に城壁の中らしい。

 眼前には開かれた、大きな扉が目に入って来た。


 ……というか、自然な形でエスコートされた。

 もうこのエリーは、完全に別物だと考えた方が良さそうだ。


「ん? 何か魔王城の様子がおかしくないか?」


 後ろのメルトが腕を組んで、魔王城を見上げていた。

 黒っぽい石で作られた、歴史を感じさせる古城に対して。


 数度目にしただけのオレには、その違いが理解出来ない。

 しかし、見慣れたメルトは、何か違和感を感じるらしい。



 ――と、隣のエリーも意味あり気に微笑んでいた。



「ふうん……。随分と手入れ(・・・)したみたいね……」


「手入れだと……?」


 オレはエリーに視線を向ける。

 しかし、彼女は楽しそうに微笑むだけだった。


 どうも、詳しく説明する気はないらしい。

 オレは仕方が無いと諦めて、魔王城へと踏み込んでいく。


 何故だか当然の様に、エリーに手を握らされていた……。


「待て、ユウスケ。異常なまでに、大多数の気配がある……」


 メルトの声に、オレは足を止める。

 振り返ると彼女は、険しい表情で城内を睨んでいた。


「普段の魔王城には、十名程度の従者しかいない。それが今は、百は優に超える数。それがいずれも、高い覇気を纏う者達……」


「それは、魔王城が何者かに占領されたと言うことか?」


 メルトからは、ピリピリとした緊張感が感じられた。

 彼女は少し考えた後に、ゆっくりと頷いて見せた。


「その可能性は考慮すべきだ。シェリルの身に、何も無ければ良いが……」


 どうやらメルトは、シェリルの身を案じているらしい。

 元部下を真っ先に心配する彼女を、オレはとても愛おしく感じる。


 ……だが、今はそういう事を考えている場合ではないな。


 シェリルにはオレも世話になった身なのだから。

 オレ達の仲を取り持った彼女を、無事に助け出さねばならない。


 オレとメルトは、互いに無言で頷く。

 そして、油断せぬ様に警戒しながら城内へと向かう。


「ふふっ、何だか楽しくなって来たわね?」


 エリーは何故だか、一歩下がって微笑みを浮かべる。

 少し不謹慎と思うが、その怪しい笑みは彼女に良く似合っていた。


 オレは念の為に、女神マサーコ様の指輪に手を添える。

 いざとなれば、この指輪を外して敵の襲撃を退けようと考え……。



 ――しかし、事態は思わぬ方向へと動く。



「おお、大魔王様! ようこそ、お戻りになられました!」


 開かれた城門から、一人の女性が姿を見せた。

 桃色の髪に、黒いドレス姿の女性である。


 彼女は両手を広げ、歓迎する様にオレ達へと近寄って来る。


「……シェリルだと? おい、城内はどうなっている?」


 その姿を目にし、メルトは身構えたままで尋ねる。

 何故だか、シェリルを相手に、警戒の眼差しを向けていた。


 その事をオレが戸惑っていると、シェリルはクスクスと笑う。

 そして、氷の様に冷たい笑みで、メルトへと答える。


「流石はメルト様。城内の気配に感ずかれましたか……」


「私の質問に答えろ。今の魔王城は、どうなっている?」


 厳しい視線で睨み詰めるメルト。

 その視線を、涼し気な笑みで受け流すシェリル。


 二人の間に緊張感が高まって行く。

 ハラハラしながら見つめていると、先にシェリルが動き出した。


 さっと右腕を城内へ向け、オレ達に対して自慢げに告げた。


「その答えは、ご自身の目でお確かめ下さい! これが、今の魔王城です!」


 そして、差し向けた腕の先は、魔王城のエントランス。

 そこにに目を向けると、その光景にオレはハッと息を飲んだ。


 闇に紛れる様に、無数の悪魔達がびっしりと並んでいた。

 身じろぎ一つせず、軍隊の様に統率された姿でだ……。


 驚愕するオレとメルトに対し、シェリルは二っと笑みを浮かべる。


「ふふふ……。まだまだ、驚くのは早いですよ……?」


 自信に満ちたその笑みに、オレ達はただ状況を見守り続けるのだった。

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