計画の綻び(シェリル視点)
魔王城には予定通り、全ての上級悪魔が集結した。
準備は万全で、いつでも大魔王様の帰還を迎える準備が出来ている。
不眠不休に近い突貫作業だったが、状態は完璧だと言える。
私の部下達も、この短期間で良くやってくれたと感謝している。
やっと一息付ける状況となり、私は私室で寛いでいた。
なのに、部下の一人が泣きながら転がり込んで来た……。
「シ、シェリル様~……!!!」
「……何事だと言うのですか?」
私は嫌々ながらに、部下へと問い掛ける。
どう考えても、厄介な案件としか思えなかったからだ。
何しろ、転がり込んだのは例のメイド悪魔である。
ディアブロに張り付け、彼の動向を監視させていた……。
「ディアブロ様が、地下牢で宴会を始めました! ご自身が捕まえた、侵入者達と一緒に!」
「…………」
私は頭を抱えて黙り込む。
彼女の言葉を、脳が受け付けまいと反発した為である。
しかし、それでは話が進まない。
私は嫌がる脳を無理やり、何とか働かせる。
「え、えっと……。なぜ、その様な事に……?」
「そんなの、わかりませんよ! ディアブロ様が勝手に始めたんです!」
いつもは冷静な部下が、完全に取り乱している。
感情が爆発した状態となり、冷静さは欠片も残されていない。
それを差し引いても、彼女に何から聞けば良いというのだ?
ツッコミどころが多すぎて、対処方法がまったく思いつかない。
そして、私が黙考していると、部下は更に捲し立てる。
「どこからかお酒を持ってくるし! 勝手に牢屋の壁をぶち抜いて大部屋にするし! あまつさえ、結界を張って私は入れないし!」
「……おうふ」
思わず意味不明な言葉が口から洩れた。
もはや、事態は私の理解を大きく超えた状況にあるらしい。
「何なんですか、あのムッツリ仮面! 行動が意味不明過ぎです! 絶対に私だけ除け者にしてるんですよ! あれはとんでもない、腹黒に違いないですよ!」
部下は更に何やら捲し立てている。
ディアブロへの不平不満を、ここぞとぶちまけている。
半泣き状態の部下を前に、私も泣きたくなってくる。
彼女をどうやって宥めれば良いのだろうか?
そもそも、ディアブロをどうするべきだろう?
侵入者の撃退に、彼の力は未だ必要な状況なのに……。
「……なるほど。良くわかりました」
私は鈍い脳を回転させ、頑張って結論を導き出す。
どう考えても、今の状況ではこうするしかないのだろう。
部下はパッと笑顔を浮かべ、私の言葉を待っていた。
状況を理解した私が、解決策を授けてくれると期待して。
――そして、私は彼女に対してこう告げる。
「貴女は疲れているのですね。少し、休んだ方が良いでしょう」
「――っな……?!」
目を見開いて、驚愕の表情を浮かべる彼女。
口をパクパクとさせ、状況が理解出来ない様子だった。
私は彼女の両肩にそっと手を添える。
そして、柔らかな笑みを見せ、彼女へ優しい言葉を掛ける。
「ディアブロの事は大丈夫です。貴女はしばらくお休みなさい。そう、大魔王様がご帰還されるまで」
大魔王様の件が片付けば、ディアブロの件も着手できる。
それまでは、両方の案件を同時に対応等、出来るはずが無いのだ。
ならば、今は見て見ぬ振りをする。
ディアブロの件は後回しにするしかないのだ……。
「さあ、自室へお戻りなさい」
私は彼女の肩をそっと押す。
そして、やや強引に部屋から追い出しに掛かる。
そんな私の意思が伝わったのだろう。
彼女は涙を流しながら、部屋の外へと駆け出して行った。
「シェ、シェリル様の……。アホーっ……!」
上司である私へ、暴言を吐き捨てる彼女。
しかし、今だけは彼女を罰する気になれません。
この大きな案件が片付いたら、その後にゆっくり話し合いましょう。
きっと、お互いに落ち着いた状態なら、わかり合えるはずだから……。
「もう少しで、全てが……」
完璧に進めていたはずの計画。
そこに生じた、ほんの僅かな綻び……。
その不安を内心に押し込め、私は僅かな休息に身を委ねるのだった。
第五章が終了となります。
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