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吸血鬼の城

 馬車に揺られて三日が経つ。

 オレ達はようやくエリーの城へと到着した。


 古めかしい古城を前に、オレはあるゲームを思い出した。

 しかし、吸血鬼の城なので、悪魔城では無いなと思いなおす。


「さあ、遠慮せずに入って!」


 エリーに手を引かれて城へと踏み込む。

 すると、外見の重々しさに反して、中の内装は真逆であった。


 赤や黄色のカラフルな装飾で壁が埋め尽くされている。

 カボチャのランタンや、蝙蝠の飾りが天井にぶら下がっている。


 どう見ても、これはハロウィン・パーティーの会場ではないか?


「「「お帰りなさいませ! 姫様、大魔王様!」」」


 城のエントランスには、多くの出迎えがあった。

 各十名程の執事とメイドが、列を成して頭を下げている。


 見た目は人と変わりが無いが、顔はどこか青白い。

 恐らく、彼等はエリーの配下の吸血鬼なのだろう。


 エリーは近くの執事に声を掛ける。


「馬車にマンドラゴラを積んであるわ。早速、調理して来て」


「承知しました。直ちに会場へお持ち致します」


 そう告げると、執事はふわっと霧となって消え去ってしまう。

 どうやら、吸血鬼は霧になって移動するのが主流らしい。


 満足したエリーらしく、エリーは再びオレの手を引く。

 そして、食堂らしき場所へとオレ達を招き入れた。


「それじゃあ、パパの歓迎会を始めるわ! 用意した料理を堪能してね!」


「ほう、それはありがたい。楽しませて貰う事にしよう」


 テーブルには数々の料理が並んでいた。

 ピザやパイにスープやケーキ。


 パーティーに在りそうな、見慣れた料理が並んでいる。

 その中で、見た目でわからない物を発見した。


 赤茶色の皮を持つ、フルーツなのだろうか?

 真っ白な身を持ち、見た目的には悪く無さそうだが……。


「これは、一体……?」


「若マンドラゴラか? 中々に旨いぞ」


 オレの呟きに、メルトが答えてくれる。

 そして、指でつまんで、そのまま齧りつく。


 皮は残して別の皿に置いていた。

 どうやら、そうやって食べる物らしい。


「ふむ、試してみるか……」


 メルトに倣って、オレも若マンドラゴラを食べてみる。

 そして、その味と触感に軽い衝撃を受ける。


 最も近いのはドラゴンフルーツだろうか?

 あそこまで瑞々しくは無いが、触感も味も非常に近い。


 マンドラゴラは、野菜というより果実に近いのだろうか?

 オレは首を傾げながら、近くのワイングラスに手を伸ばす。


 すると、エリーが不思議そうに尋ねて来た。


「それ人間の血だよ? パパも飲むの?」


「ぶっ……?!」


 口を付ける寸前で慌ててグラスを離す。

 確かに、微かに残る香りが血生臭い……。


 グラスをテーブルに置くと、エリーがそれを手に取った。

 そして、楽しそうに笑いながら、それをゆっくり飲み干した。


「近くの牧場で採れたばかりよ? 新鮮で美味しいんだから!」


「近くの、牧場だと……?」


 先程、エリーは人間の血だと言った。

 そして、今は牧場で採れたてだと……。


 オレが戸惑っていると、メルトが横から声を掛ける。


「国境近くの領内に、人間達の村がある。そこで税金代わりに血を納めているのだ」


「税金代わりに、血を納める……」


 その制度に、オレは思わず顔を顰める。

 同じ人間として、家畜扱いに思う所があった為だ。


 しかし、メルトはふっと笑ってオレに告げる。


「その様な顔をするな。人間側からしても、望んでその村に住んでいるのだからな」


「な……。血を納める事を、望むと言うのか……?」


 オレが戸惑っていると、メルトはコクリと頷いた。

 そして、やれやれと首を振って説明を行う。


「不死族に守られ、魔物による身の危険がない。健康な血を得る為に、栄養価の高い食事が与えられる。労働等も課されておらず、のんびり自堕落に生きられるのだからな」


「そ、そうか……」


 それは何となく理解出来る気がした。

 彼等はきっと、ニートになる事を選んだ人種なのだろう。


 ブラックな環境で働かされるより、幸せな生き方とも言える。

 働いたら負けという、名言も聞いた事があるしな……。


 オレは自分の考えを反省する。

 多様な価値観が認められる時代に、オレの視野は狭かったのだと。

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