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嘆きの森

 オレ達は馬車に乗り、エリーの城へと向かっていた。

 しかし、何故だから鬱蒼と茂った森を前に停車してしまう。


 何事かと首を傾げていると、エリーがオレの方へ振り向く。

 何故だか、オレの膝に座った状態で……。


「どうやら着いたみたいね。目的の『嘆きの森』へ!」


「はあっ……?! 『嘆きの森』だと……!」


 オレの隣から驚きの声が漏れた。

 見ればメルトが、慌てて窓から外を眺めていた。


 そんなメルトを無視し、エリーは馬車の扉を開く。

 そして、オレの手を引いて降り出した。


「さあ、行きましょう。パパに面白い物を見せてあげる!」


「あ、おい待て、エリザベート! 流石にこの森は……!」


 メルトも慌てて、オレ達の後を追い掛けて来る。

 そして、周囲を警戒しながら、エリーの肩を掴んで止める。


 だが、エリーは呆れた様子で、ふっと笑みを浮かべていた。


「呪いの事を気にしてるの? 貴女もパパも、それで死ぬタマじゃないでしょ?」


「いや、それは確かに、そうなのかもしれないが……」


 何やら物騒な会話が聞こえて来た。

 呪いとか、死ぬとか、ここは危険な森なのだろうか?


 オレが警戒していると、エリーがニコッと笑みを浮かべた。


「心配しなくて大丈夫。パパは強いもの。奴等の呪詛なんて影響無いわ!」


「奴等の呪詛……? それは一体……?」


 オレの問い掛けに、エリーは悪戯っぽい笑みを浮かべるだけ。

 困ったオレは、メルトに対して視線を向けた。


 すると、メルトは腕を組んで、オレへと険しい表情を向ける。


「おい、ユウスケ。耳を澄ませて、森の声を聞いてみろ」


「森の声だと……?」


 森の声とはどういう事だろうか?

 この森は、木々が何か話をするのだろうか?


 疑問に思うが試すしかあるまい。

 オレは耳を澄ませて、森へと耳を傾けた。


 すると、確かに何かの声が聞こえてくる……。


「……アァァァ……。……アァァァ……」


「これが、森の嘆き……?」


 聞こえてくるのは、悲しく切ない声であった。

 誰かが嘆いている様に感じられた。


 オレが戸惑っていると、エリーは胸を張って宣言する。


「まあ、見ててよ! すぐに面白い物を見せてあげるから!」


 エリーは森へと向き直り、目を細めて集中力を高め始める。

 そして、しばらくすると、ふわっと霧の様に姿を消してしまう。


 オレが驚いていると、エリーの姿が再び戻る。

 そして、何やら手には、見慣れない物が握られていた。


「ほら、捕まえて来たよ!」


「ゴラァァァ……。ゴラァァァ……」


 その手に握られたのは、茶色い大根らしき物。

 それは手足をバタバタさせて、悲し気に鳴き声を上げていた。


 ……もしや、これが噂のマンドラゴラか?


「おい、本当に大丈夫なのか? 随分と呪詛が強そうに感じるが?」


「もう、メルトは心配性ね。それなら、こうすれば良いでしょう?」


 エリーは呆れた様子で、やれやれと肩を竦める。

 そして、彼女は自らの爪で、葉っぱの根元をスパっと切った。


「――ゴ、ラァ……」


 葉を切り取られたマンドラゴラは、動きをピタリと止めてしまう。

 その口から洩れる、悲しい嘆き声も途絶えてしまう。


 悲し気に息絶えたマンドラゴラを掴み、エリーはドヤ顔で説明する。


「今のが活け締めよ。こうする事で、鮮度を保つ事が出来るの」


「な、なるほど……。オレの知る活け締めとは違う物だな……」


 恐らく、概念は魚を釣った後の、活け締めと同じなのだろう。

 あちらは暴れない様にした後に、血抜きの処理等を行うのだが。


 しかし、戸惑うオレに何を思ったか、エリーがパッと笑顔を浮かべる。


「どう、凄いでしょ? これでも私は、マスタークラスのマンドラゴラ・ハンターなんだから!」


「それは凄いな……。こんな身近に、本物のハンターが存在したとは……」


 エリーはマンドラゴラを高々と掲げていた。

 テレビで時々見る、例の『とったどー!』ポーズである。


 満足そうな笑みのエリーに、オレは頭を撫でてやった。

 すると、メルトが複雑そうな表情で、ぼそぼそと囁いた。


「この森は、狩られたマンドラゴラの怨念が積もっている……。その怨念が、新たなマンドラゴラを生み出すのだ……。そして、彼等の嘆きを聞いた者は、毎夜の夢でその声を聞く事になるそうだ……」


 つまり、聞いた者に悪夢を見せると言う事か?

 それはマンドラゴラが、ホラー系の生物という事ではないか?


 可憐に見える少女が、無邪気に獲物を掲げて微笑んでいた。

 しかし、狩られた獲物は、怨念を振りまく呪いの生物であった。


 オレは新感覚の恐怖に、言い知れぬ戸惑いを感じていた……。

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