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不死族の交渉術

 昨晩は一軒の家を借りて、ベッドで一泊させて貰った。

 村人は朝まで宴の様だが、メルトがあっさり切り上げたのだ。


 そして、夜明けと共に目を覚ます。

 メルトと共に家を出ると、村人が片付けを行っていた。


 オレ達が中央のテーブルへ向かうと、ジャックが歩み寄って来た。


「おはようございます。姫様がお見えになられていますよ」


「姫様?」


 一瞬、誰の事かと疑問に思う。

 しかし、ジャックの示す先を見つめて理解した。


 中央テーブルに腰掛ける、エリーを見つけた為だ。

 彼女はパッと笑みを浮かべ、オレの元へと掛けて来た。


「パパ、おはよう! 準備が出来たから迎えに来たよ!」


「おはよう、エリー。わざわざ、来て貰って済まないな」


 見た目は小中学生の少女だが、エリーも領主という立場だ。

 決して暇という訳ではあるまい。


 出迎えは嬉しいが、オレは申し訳なさを感じていた。

 そんなオレに対して、エリーはニコリと微笑んだ。


「お城に居ても暇だから! 仕事は全部、手下に任せてるし!」


「そ、そうなのか……?」


 予想に反して暇だったらしい。

 もしや世の中の偉い人達は、オレが思うより忙しく無いのだろうか?


 そういえば、以前の上司も暇そうにしていた気がする。

 部下に仕事をぶん投げて、自分は新聞を読んでいたりと……。


 オレはどうでも良い記憶を脳裏から追いやる。

 そして、エリーに対して村の感想を伝える。


「それにしても、ここは良い村だな。争いも無く、皆が楽しそうに暮らしている」


「うん、皆には好きにさせてるからね! 人族とも上手く付き合ってるんだよ!」


 ニコニコと笑いながら、エリーが嬉しそうに伝えて来る。

 領地経営が上手と褒められ、子供の様に喜んでいるのだろう。


 そして、オレはエリーの頭を優しく撫でる。

 人族と共存しているのなら、彼女の手腕は褒められるべきだからだ。


 しかし、そんなオレ達に対し、メルトが厳しい口調で告げる。


「待て、ユウスケ。恐らく、お前は誤解しているな」


「何だと? オレが何を誤解していると言うのだ?」


 オレとエリーが揃って首を傾げる。

 彼女が何を言いたいのか、エリーもわかっていない様子だ。


 すると、メルトはエリーに対して質問を投げ掛ける。


「エリザベート。人族が交渉を持ち掛けてきたら、お前ならどうする?」


「人族が交渉を持ち掛けてきたら?」


 メルトの質問に、エリーは不思議そうに見つめ返す。

 そして、人差し指を顎に当て、考える様な仕草で答える。


「そうね、まずは殺すわ」


「まず、殺すのか……?」


 始まる前に交渉が終わってしまった。

 エリーの回答に、流石のオレも戦慄してしまう。


 しかし、エリーはそれに気付かず説明を続ける。


「そして、不死族にしてから話を聞くわ。そうすれば、私の言う事を何でも聞くしね」


「それはもう、交渉と言わないのでは……?」


 まさかの交渉術である。

 支配下に置いてから、会話を始めるスタイルらしい。


 これにはオレもドン引きである。

 これは間違いなく、人族と共存しているとは言えない。


 オレが衝撃を受けていると、メルトはオレに対して告げる。


「不死族にとって、人族は家畜の様な存在だ。人間も牛や馬とは、上手く付き合っているだろう?」


「なるほど……。確かにオレは、誤解していたらしい……」


 無邪気な笑みで、不思議そうに首を傾げる少女。

 銀髪で可憐な姿に見える少女を、オレは改めて再認識する。


 彼女は不死族の女王エリザベス。

 四天王の一人にして、残虐のエリザベスと呼ばれる存在なのだと。



 ――と、そこでエリーはあっと声を上げる。



「パパの事は人間と思ってないよ! パパはもう、パパっていうカテゴリだから!」


「そ、そうか……。それは、何と言えば良いのだろうな……?」


 エリーにとってそれは、オレへのフォローだったのだろう。

 だが、人間と思われていない発言を、オレはどう受け止めれば良いのだ?


 オレは腕を組んで、唸る様に重々しく頷いた。

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