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不死族の村

 馬車に揺られて約一日。

 日が暮れる頃に、小さな村へと到着した。


 エリーの城へは距離がある為、今日はここで一泊するそうだ。

 オレとメルトは馬車から降りて、村の様子を確認する。


「……ん? 今日は祭りでもやっているのか?」


 村は10軒程の民家しかない小さな規模だ。

 その中心地では、村人が集まって何かの準備を行っていた。


 中央に大きなテーブルが置かれ、料理や酒が並んでいる。

 村の所々には、ランタンで明かりも灯されていた。


 ちなみに、村人はスケルトンやゴースト達である。

 端から見れば、ハロウィン・パーティーにしか見えない。


「いえいえ、祭りでは御座いませんよ。あれは毎晩行われる夜会ですな」


「不死族は夜行性だ。昼は黙々と農業をし、夜は皆で盛り上がるらしい」


 ジャックの説明に、メルトが補足を付け加える。

 どうやら、メルトにとっては既知の習性らしい。


 まあ、メルトは仮にも元魔王だからな。

 配下の不死族について、理解があってもおかしくはない。


「では、皆へ紹介しますので、こちらへどうぞ」


「ああ、宜しく頼む」


 ジャックに連れられ、中央のテーブルへと向かう。

 村人の不死族達は、オレ達に気付いて準備の手を止める。


「皆さん、大魔王様とメルト様をお連れしました」


「「「ようこそ! 我らが不死族の村へ!!」」」


 スケルトンやゴーストの表情はわからない。

 しかし、その言葉から、歓迎されているのは理解出来た。


 日中は農業を行い、夜は夜会で盛り上がる。

 不死族というのは、思ったよりも牧歌的な種族なのかもしれない。


 そんな事を考えていると、一体のゴーストが近寄って来た。

 そして、ジャックに対して問い掛ける。


「それでは、とりあえず殺しますか?」


「おい、とりあえずで殺すなよ……?」


 突然の物騒なセリフに、オレは思わず身構える。

 すると、ジャックは腹を抱えて笑い出した。


「ふほほほっ、ジョークですよ! そもそも、我々では殺せませんし!」


「「「あはははははっ!!!」」」


 何やら村人達が大爆笑し始める。

 これはブラック・ジョークならぬ、アンデッド・ジョークなのか?


 オレは状況が呑み込めずに戸惑ってしまう。

 すると、メルトが平然とした表情でテーブルを指さす。


「こいつらの話に付き合うな。とりあえず、私達は飯を食って寝るぞ」


「う、うむ……。そうか……?」


 何やら淡々とした対応を取るメルト。

 どことなく、いつもよりも無表情に見えるな……。


 そして、オレとメルトはテーブルに着く。

 勝手に食べだすメルトに戸惑うと、ジャックがオレに声を掛ける。


「ああ、お気になさらず。食べれませんので、我々にとっては唯の飾りですから」


「この料理が……。唯の飾りだと……?」


 改めて確認するが、テーブルの料理はそれなりに豪勢だった。

 ピザやチキンに、ワインやサラダも並んでいる。


 どう見ても、本物のパーティー用料理にしか見えないが……。


「こいつらは基本的に暇なんだ。娯楽の為に、こういう事を平然と行う」


「それはつまり、これらは場を盛り上げる為の演出という事なのか……」


 試しにピザを一切れ手に取り、口へと運んでみる。

 食べた感想としては、あまり美味しくないとしか……。


「自分達が食べる訳じゃないからな。こいつらに味はどうでも良いのだ」


「ふむ、所詮は飾りという事か……」


 美味しくは無いが、食べられない訳でも無い。

 空腹を満たす為だけなら、問題無い料理なのだが……。


「――ん? どうかしたか?」


 美味しくないはずの料理を黙々と食べ続けるメルト。

 食欲の沸く物では無いのに、いつも以上に食べ続けている。


 オレは身を乗り出して、メルトの髪をそっと撫でた。


「ちょっ?! お前は突然、何をしているのだ!」


「いや、メルトは偉いなと思って……」


 メルトは顔を赤らめ、嫌そうにオレの手を振り払う。

 そして、再び目の前の料理を口に運んでいく。


 ……うん、そうだな。

 オレ達が食べなければ、きっと廃棄されるだろうしな。


 オレはメルトを改めて惚れ直す。

 そして、メルトに負けじと、目の前の料理に手を付けるのだった。

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