名産品
エリーの治める不死族領へ、オレとメルトは馬車で向かう。
リオンは城に戻ると、獣人族の砦で別れる事となった。
そして、スケルトンのジャックは御者を務めている。
オレは二人っきりの車内で、隣のメルトへ問い掛ける。
「そういえば、不死族領とはどの様な場所なのだ?」
目的地の詳しい話を聞いていなかった。
そもそも、不死族が何なのかも良くわかっていないのだ。
それは、何かと不味いのではと、オレも薄々感づいていた。
獣人族と接する中で、人間とは文化が違うと気付いた為だ。
オレの問い掛けに、メルトはふむと頷く。
そして、思い出す様に、遠い目をして語りだした。
「その名の通り、不死族が集まる領地。死してアンデッドとなった者達が、自然と集まって来る場所だな」
「やはり、アンデッドが集まる領地なのか……」
出迎えのジャックがスケルトンなのだ。
その辺りは薄々と気付いていた。
だが、問題はその領地がどの様な場所であるのかだ。
生命を恨むアンデッドが、人々を襲い掛かるのかどうか……。
「彼等の多くは、暇を持て余して農業をしている。主食はガレットで、ワインも中々に人気が高いな」
「待ってくれ。不死族は暇つぶしに、農業を行っているのか?」
さも当然の様に語るメルトに、オレは思わず待ったをかける。
オレの想像するイメージと、余りにもかけ離れている……。
驚くオレに、メルトは眉を顰めて説明を続ける。
「勿論、全員が農民では無い。マンドラゴラ・ハンターも人気だな。アレは高値で売れるしな」
「聞きなれないが、それは職業で良いのか? その、マンドラゴラ・ハンターとは何のだ?」
マンドラゴラとは何かで聞いた記憶がある。
確か引っこ抜くと、絶叫するという植物だったか?
だが、そんな不気味な物が高値で売れるという。
マンドラゴラが何に使われるのか、まったく想像も出来なかった。
「昔は呪術に使われたが、今はそんな勿体ない使い方はされない。マンドラゴラは万能の霊薬になる。若返り薬は種族問わず人気だしな」
「なるほど……。マンドラゴラは霊薬の素材なのだな……」
きっと、高麗人参の最高級品みたいな物なのだろう。
最高級の漢方薬と考えれば、高値で売れるイメージが付く。
マンドラゴラについては、オレも理解する事が出来た。
つまり、マンドラゴラ・ハンターは松茸狩りの名人みたいな感じなのだろう。
「そして、マンドラゴラ・ハンターは、逃げ回るマンドラゴラを捉える名人。凄腕の狩人に与えらえる称号の事だ」
「マンドラゴラは、逃げ回るのか……?」
オレのイメージでは、地面に埋まっていると思っていた。
しかし、逃げ回るという事は、植物では無いのか……?
戸惑うオレに対し、メルトは真剣な表情で頷いた。
「生まれたては地面に生えている。しかし、これは若すぎて効能が低い。価値があるのは、ニ、三年物の自立歩行を行う奴だ」
「な、なるほど……。生まれたては地面に埋まっているのか……」
やはり、マンドラゴラは植物で合っているらしい。
しかし、自力で歩き出すのは、オレの想像を超えていたが……。
「そして、真に価値があるのが五年物。こいつらは森に潜伏し、俊敏に走り回る。見つけるのも、捉えるのも至難の業なのだ」
「何というか……。まったくイメージが出来ないな……」
もはや、例える物が思い浮かばない。
完全にオレの想像を超越した植物と考えるべきだろう……。
「五年物を捉えられるのがマンドラゴラ・ハンター。彼等は十年物を捉える事を、人生の目標とするらしい」
「そうか……。マンドラゴラ・ハンターとは、奥深いものなのだな……」
暇な不死族の生き甲斐と、他種族の実利がマッチした結果と思われる。
きっとこれが、Win-Winの関係というものなのだろうな……。
オレは異世界の奥深さに驚きつつ、見聞が広がった事に満足感を得るのだった。




