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かぼちゃの馬車

 獣人族の砦で一泊し、朝日と共に目覚めるオレ。

 疲れて眠るメルトを残し、オレは朝の散歩へと出かける。


 朝食を食べるには早いし、メルトの起床を待つべきだろう。

 そんな訳で、暇つぶし感覚でふらっと外に出たのだが……。


「――おや? 随分と御早いお目覚めですね?」


 砦を出てすぐ、一人の人物がオレを待ち構えていた。

 彼はオレを見つけると、軽い足取りで歩み寄って来る。


 燕尾服を着た紳士? で、良いのだろうか?

 彼はオレの目の前で、優雅に一礼して見せた。


「お初にお目に掛かります、大魔王様。ワタクシはエリザベート様の従者、ジャックで御座います」


 この紳士はエリーの従者らしい。

 この後に向かう予定だったので、出迎えという所だろう。


 ……それ自体は理解出来るし問題無い。

 しかし、問題なのはジャックのとある一部だ。


「うむ、丁寧な挨拶痛み入る。……ちなみに、その頭はファッションだろうか?」


 ジャックはゆっくりと頭を上げる。

 そして、その巨大なカボチャ頭を愉快気に揺らす。


「ほっほっほ! まず、第一声がそのご質問ですか!」


 何がそれ程に愉快なのかは不明だ。

 しかし、ジャックは腹を抱えて笑い出した。


 オレが戸惑っていると、ジャックはピタリと笑いを止める。

 そして、その頭にそっと手を添える。


「ええ、こちらはエリザベート様の趣味となります。ほれ、この通りです」


「なっ……?!」


 ジャックはスポッとカボチャ頭を取り外す。

 そして、下から現れたのは、真っ白なスケルトン顔だった。


 よくよく見れば、彼の手も真っ白な骨だ。

 始めは白い手袋かと思ったが、そんな事は無かった。


「頭蓋骨は可愛くないらしく、被る様に命じられております。これを付けないと、バラバラにされてしまいますので」


「そ、そうか……。ん、バラバラ……?」


 オレが首を傾げる間に、ジャックはカボチャを再装着する。

 そして、何事も無かったかの様に、背後に向けてそっと手を伸ばす。


「そして、エリザベス様から愛用の馬車でお出迎えをと」


 ジャックの指し示す方へと視線を向ける。

 そこには、一台の馬車が止まっていた。


 カボチャの形をした、オレンジ色の馬車である。

 それだけを見えれば、シンデレラの馬車にも見える。


 ……だが、それを引くのは、二頭の馬型スケルトンみたいだ。


「ほっほっほ! 実にファンシーな馬車ですな!」


「そうか、この世界ではあれがファンシーなのか」


 オレから見ると、かなりファンキーな馬車に見える。

 しかし、この世界の感覚すれば、きっとオレが異端なのだ。


 郷にいては郷に従えとも言う。

 そういう物なのだと、納得しておく場面なのだろう。


 オレが腕を組んで頷いていると、ジャックがオレに尋ねて来た。


「それで大魔王様も夜型でしょうか? 準備が宜しければ、出発致しますが?」


 いや、早起きをしただけで夜型という事では無い。

 メルトも寝ているので、すぐに出発する事は出来ない。


 それと、オレは寝れるタイミングでいつでも仮眠を取る。

 そういう生活が身についており、いつ寝るという感覚は無い。


 ……まあ、これは余談であったな。

 女神マサーコ様にも言われたので、生活はメルトに合わせなくてはな。


「日の光は堪えますし、移動は夜が好みですがね。まあ、アンデッドは寝ませんので、一日中働けますがな!」


 何やら再び、楽し気に笑い出すジャック。

 そして、ブラックな発言もさらりと流れる。


 あれは、アンデッド流のブラック・ジョークだろうか?


「……メルトが起きたら朝食にする。移動はその後としよう。ちなみに、ジャック殿の朝食は?」


「――ぶっ! ふ、ふほほほっ! 朝食など食べたら、全て零れ落ちてしまうではないですか!」


 腹を抱えて笑い出すジャック。

 余りにも笑い過ぎて、地面に転がって身悶えしていた。


 言われて見れば、確かに彼はスケルトンだからな。

 口からすべて零れるし、胃で消化する事も出来無さそうだ。


 ……とはいえ、床を転げ回るのは、流石に笑い過ぎではないか?


「ふう……。大魔王様はエンターテイナーですな。では、ワタクシは馬車でお待ち致します」


「そ、そうかね? それでは、余り待たせない様に、私はメルトと食事を取って来よう……」


 優雅に一礼して見せるジャック。

 その背中を見送り、オレも砦の中へと引き返した。


 きっと、ジャックは悪い人物――骨では無いのだろう。

 しかし、少しばかり感覚が尖り過ぎている感じがする。


 馬車での旅も、中々にファンキーな感じになるのだろうな。

 そんな事を考えながら、オレはメルトの元へと向かうのだった。

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