進行する計画(シェリル視点)
大魔王様とメルト様が出立して10日が経過した。
最近は毎日3時間程度の仮眠を取り、何とか遅れ無くやれている。
各地から集めた配下の悪魔は100名近くが集結済み。
残り100名程も大魔王様とメルト様の戻りには間に合うだろう。
彼等はいずれも古株で精鋭の悪魔達である。
常に牙を研ぎ、腕を磨き、来るべき時に備えていた猛者経達なのだ。
大魔王様を前に経験の浅い新人等は足手まといでしかない。
人数は少なくとも、この精鋭部隊で計画を進めるのがベストである。
私は半日に一度、城内の見回りを行っている。
配下達の仕込みに不備が無いか、この目で確かめる為である。
部下達の事を信用していない訳では無い。
それでも、ほんの小さな綻びで、計画が破綻しない為にも……。
「――ん? 何やら騒がしいですね?」
誰かの騒いでいる声が耳に飛び込んで来た。
部下達の間で、何かしらの揉め事が起きているのかもしれない。
私は痛む頭を押さえながら、現場へと足を向ける。
ピリピリするのは理解出来るが、感情を抑えられない愚か者がいるとは……。
しかし、声がはっきり聞こえる距離で、何やら状況がおかしい事に気付く。
私は自らの直感に従い、物陰から状況を確認する事にした。
「――どうして、いなくなっちゃうの! 私がお目付け役だって聞いてるでしょ!」
叫んでいるのはメイド服を纏った女性の悪魔だ。
私が信頼する、古参の部下である。
そして、怒鳴られているのは、仮面の執事ディアブロ。
彼は直立不動で、彼女の声に無反応であった。
私は確かにディアブロに命じている。
連絡係でもあるので、彼女の指示には従う様にと。
そして、ディアブロもそれを了承する様に跪いた。
てっきり、上手くやれていると思っていたのだが……。
「侵入者を捕まえてるのはわかるよ! でも、急に消えないでよ! 前までは走ってたじゃない!」
彼女は涙目になりながらも、ディアブロへ訴えかける。
話す内容からすると、ディアブロの行動に変化が生まれたのか?
更なる情報を得るべく、私は壁に張り付いて聞き耳を立てる。
「シェリル様に何て報告すれば良いのよ! 周りはみんな忙しいのに、私だけ遊んでるみたいでしょ!」
確かに今の魔王城で、暇をしている者は存在しない。
城内にいるのは私の部下のみで、各自に業務を割り振っている。
私達が相手にするのは、あの大魔王様なのだ。
どれだけ準備をしても、十分と言えるはずが無いのだから……。
「――あ! また、消えた! ……もう、やだぁ! あのムッツリ仮面!」
一瞬、目を離した隙に、ディアブロが消えていた。
彼女が言う通り、本当に姿を消してしまうらしい。
もしや、あれが伝説に伝わる『転移魔法』という奴だろうか?
既に失伝したはずだが、古の悪魔ディアブロであれば或いは……。
私は伝説の魔法に興味を引かれる。
しかし、私の部下はそれ所では無く、涙声で叫びながら駆けて行く。
「また、城壁付近っ?! また、魔王城を一周なのっ?! いい加減にしてよっ!」
半泣きではあったが、それでも使命を果たそうと走る部下。
彼女のその姿に、私は形容しがたい感情に包まれる事となる。
そして、ふと視線を感じて、私は背後に振り返った。
壁に張り付く私の姿を、別のメイド悪魔が見つめていた。
「……あ、あれは初めてでは無いのですよね?」
「え、ええ……。ここ数日は、日に数回は……」
引き攣った表情で答えてくれるメイド悪魔。
どこか、ソワソワした様子で、私から視線を逸らしていた。
私は壁から離れ、身だしなみを整える。
そして、表情をキリっと引き締めて、部下へと指示を出す。
「と、とりあえずは、問題無しとします。今は計画通りに作業をお願いします」
「え、問題な……。あ、いえ、承知しました! 皆にもそう伝えておきます!」
咄嗟に理解を示してくれる、自慢の部下だと思う。
彼女もキリっとした表情を浮かべ、一礼して走り出して行った。
そう、あれはもう、どうしようも無いと思う。
侵入者は捕まえてるみたいだし、今は放置するしかないんだよね……。
頭の痛い問題ではあるが、全ては計画が落ち着いたら考えよう。
今はそれよりも、優先順位の高い問題が沢山あるのだから……。
第四章が終了となります。
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