お使い終了
オレとメルトは目的を遂げ、獣人達の砦へと戻った。
手紙と用件は伝えたので、後は副指令ゼルに任せるのみだ。
そして、砦では何故か大勢の獣人達に取り囲まれた。
彼等はぐぐっと腕を引き寄せ、ポーズを決めてこう叫ぶ。
「「「お帰りなさいませ! 大魔王様、花嫁様!」」」
「あ、ああ……。出迎えご苦労……」
何やらボディビルダーの様なポーズを崩さない一同。
良い笑顔をこちらに向けて、何らかの言葉を求めている様だった。
彼等は上半身は何も身に着けず、筋肉を動かしてアピールしている。
確かこういう時は、あのセリフと言えば良いのだったか……?
「仕上がってるよ! 仕上がってるよ! 頑張る貴方は美しい!」
「「「ウー!!! ハー!!!」」」
オレの掛け声に合わせ、各々にポーズを決める。
大胸筋をアピールしたり、腹筋をアピールしたりと……。
そして、彼等は大いに満足したらしい。
笑顔を浮かべて解散し、各々さくっと散って行った。
「おい、ユウスケ……。今のは何だったんだ……?」
「オレも詳しくは無いが、そういう世界があるんだ」
古い友人に、ジム通いの奴が居たので知識はある。
だが、話を聞いただけで、大会へ応援等も行った事は無い。
思い付きの対応ではあったが、どうやら正解を出せたらしい。
そして、そんなオレの元へとリオンが歩み寄って来た。
「いやいや、大魔王様もあれですかい? 筋肉至上主義的な?」
「いいや、残念ながら違うさ。オレはメルト至上主義なのでな」
オレの答えに、リオンは豪快な笑い声を上げる。
しかし、隣のメルトは何とも言えない表情を浮かべていた。
リオンは楽し気に笑った後、オレに向かって問い掛けて来た。
「それで、お勤めの方はどうでした? 話は聞いて貰えたんですかい?」
「ああ、エルフの内通者が出来た。人間以外が来たら仲間と思ってくれ」
オレの返答に、リオンが目を丸くしていた。
はあっと息を吐いて、呆然と呟いた。
「マジですかい……。大魔王様が、そこまで交渉上手だったとは……」
「人族が一枚岩で無かっただけだ。提案も向こうからだったしな……」
むしろ、よくあれで軍隊が正常に機能するものである。
不満を溜める者が多く、いつ反乱が起きてもおかしくなさそうだった。
……いや、魔族という見える敵が目の前にいるからか。
下手に反乱しても、魔族に砦を落とされる危険があるのだからな。
オレはふと脳裏に浮かぶが、副指令ゼルの死んだ目を忘れる事にする。
そして、気になっていた先程のイベントをリオンに問い質す。
「それで、あの出迎えは獣人族の文化か? 中々に刺激的な出迎えだったぞ?」
「いやいや、違いますって! 『超神水』で強化された奴らが、ちとテンション上がってるだけですぜ!」
リオンは慌てた様子で首を振る。
アレを獣人族の文化と思われるのは、彼にとっても心外らしい。
オレが納得したと頷くと、リオンは頭を掻いてオレに問う。
「まあ、気持ちはわかるんですがね。……ちなみに、オレもアレ飲んで良いんですかい?」
「う、うむ……。まあ、好きにしてくれ……」
どうやら、リオンにも筋肉への憧れがあったらしい。
オレは筋肉至上主義では無いので、その気持ちには共感出来ないが……。
しかし、嬉しそうなリオンを見て、隣のメルトが尋ねて来る。
「そういう事なら、私も飲んで良いか? アレの効果は期待出来そうだからな」
「メルトも、だと……?」
メルトの要求に、オレは唖然となる。
よもや、メルトまで筋肉至上主義だったとは……。
しかし、パンプアップしたメルトか……。
有りか無しかで言えば、無し寄りの無しだな。
「やはり、メルトは駄目だ。今のままが一番良いだろう」
「な、何故だっ! 私とて強くなりたい! 花嫁様ではなく、再び魔王様と呼ばれる位に……!」
オレの腕にしがみ付き、涙ながらに訴えて来る。
しかし、マッチョなメルトなど、認められるはずがない。
「それでも駄目だ。魔王とは、筋肉で成るものではないだろう?」
「そうかもしれない、そうかもしれないがっ! ……ん、筋肉?」
魔王への未練はわかるが、それは筋肉以外でどうにかして欲しい所だ。
オレはしっかりと首を振り、メルトの要求をキッパリと拒否したのだった。




