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取扱注意

 あれから少しして、副指令ゼルは落ち着きを取り戻した。

 彼は爽やかな笑みを浮かべてオレへと話し掛けて来る。


「先程は取り乱してしまい申し訳ありません。勇者様が、お話の分かる方で本当に助かります」


「なに、無能な上司と接する辛さは理解出来る。あの程度の事は、日常茶飯事であったからな」


 何せ生前のオレの職場では、いきなり奇声を発する者もいた。

 精神に異常をきたし、ふらっと職場から消えた者も多数いた。


 それに比べれば、愚痴を零す程度は何てことは無いと言える。


「いや本当に、勇者様が上司ならなぁ……。現場に送られる人間は問題ある方々ばかりで……」


 疲れた様子で肩を落とし、苦笑を浮かべる副指令。

 そんな彼の耳元へ、補佐官のエミリアが何やら囁きかけた。


「もう、司令官を暗殺しちゃいます……? 魔王様との事故って事で……」


「おい、聞こえているぞ? 私に冤罪を擦り付けようとするんじゃない!」


 青筋を立てて睨み付けるメルト。

 その視線に、エミリアは慌てて口笛を吹いて誤魔化す。


 そんな古風な誤魔化し方を、実際にやる奴がいるとはな……。

 オレが愕然としていると、ゼルはにこやかな笑みで相談を持ち掛けて来る。


「今の所、暗殺は冗談として……。停戦と和平については、もう少し話を詰めませんか?」


 今の所という言葉には引っ掛かりを覚える。

 それはつまり、いずれ決行するのは確定という事なのか?


 だが、話が逸れても困る為、そこについては目を瞑る。


「ゼル殿としては、オレの話に前向きと考えて良いのか?」


「ええ、人間以外の種族で密約を結びましょう。皆が幸せになるには、これしか無いかと」


 ゼルは真剣な瞳をオレに向けていた。

 そこには覚悟を決めた人間特有の空気が漂っていた。


「我々、エルフ族は勇者様に従いましょう。人族も含めて支配する気は御座いませんか?」


「むう……」


 それは追い詰められた人間が醸し出す空気である。

 この空気を醸し出す奴は、転職や告発を唐突に行う事がある……。


 嫌な記憶がフラッシュバックしていると、不意にメルトの横槍が入る。


「何やらユウスケに入れ込んでいるが、そんなに簡単に信じて良いのか?」


「な……。それは、どういう意味でしょうか……?」


 メルトの言葉が、ゼルには意外だったらしい。

 元々が和睦の使者として来ている事もあり、その言葉に矛盾を感じたのだろう。


 普通に考えれば、今はエルフ族だけでも手を結んでおくべきだ。

 差し出される手を払われるのは、彼等からしたら心外だろうと理解出来る。


 しかし、メルトはゼルから視線を逸らし、オレに向かって尋ねて来た。


「もし、この男が私に色目を使ったらどうする?」


「その目をくり抜いて、人族への見せしめとする」


 メルトに色目を使うなど、許せるはずが無い。

 オレのメルトを奪おうとする者は、その事如くが敵である。


「もし、この男が我々を謀り、私を害する気ならどうする?」


「五体をバラバラに切り刻み、仲間達への見せしめとするな」


 メルトに危害を加える等、考えただけで万死に値する。

 その考えが二度と起こらぬ様に、その愚かさを知らしめねばなるまい。


 メルトはオレに答えに小さく頷き、ゼルへ視線を戻す。


「この様に普段は温厚だが、地雷を踏むと人族は滅ぶ。ユウスケはそういう存在だと認識しろ」


 何やら酷い言われ様をしている気がする。

 人を危険物みたいに扱わないで欲しいものである。


 しかし、ふと気が付くと、二人のエルフは真っ青になっていた。

 ガタガタと身を震わせ、オレに向かって手を翳して来た。


「ちょ、ちょっとタイムを……。少し、作戦会議の時間を下さい……」


「勇者様ヤバイっす……。アレが『&大魔王』の部分ですよね……?」


 ゼルとエミリアは、そそくさと部屋を退室してしまう。

 オレとメルトの二人は、二人だけで応接室に取り残された。


 ふと隣に視線を送ると、何故かメルトはやり遂げた表情を浮かべていた。

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