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副司令官ゼル

 案内されたのは豪華な応接室だった。

 石作りの砦なのだが、ソファー等はかなり上物っぽかった。


 そして、テーブルを挟んで向かいに座る二人の人物。

 一人は40歳近いエルフの男性で、もう一人が20歳程のエルフの女性。


 男性の名はゼルで、この基地で副指令という地位に就く者らしい。

 そして、女性の名はエミリアで、ゼルの補佐官とのことだ。


 なお、これまで魔族達は東大陸を人族の国と呼んでいた。

 その理由は、人間だけでなく、エルフやドワーフ等も共存している為である。


 そして、この砦には多くの人族が駐在していた。

 司令官は人間だが、副指令はエルフで、ドワーフやホビットの兵士もいる。


 オレはゼルが手渡した書状を読む間、メルトから聞いた話を思い出していた。

 そして、ゼルは書状を読み終えたらしく、頭を抱えてオレに尋ねて来た。


「――つまり、勇者様は魔王と婚約し、魔族の王となった。その事を伝えに、夫婦揃って参られたと?」


「端的に言えば、そういう事になるな」


 ゼルとオレのやり取りに、隣のエミリアが目を丸くしていた。

 そして、オレとメルトを交互に見て、恐ろし気に震え出した。


 オレは安心させる為に、エミリアへふっと笑って見せる。


「怯える必要は無い。オレは和睦の使者として来た。ここで暴れるつもりも無い」


「そ、そうなんですか……? そうあって欲しい所ですが……」


 エミリアは疑わしそうにオレを見つめ返す。

 どうも、オレの言葉を信じていなさそうだ。


 その様子に、ゼルが疲れた表情で苦笑を浮かべる。


「魔族最強の魔王と、それを凌駕する勇者のお二人が手を組んだのです。下手をすれば人族存亡の危機なのですよ。彼女の態度もご理解頂ければと……」


「魔王メルト様も恐ろしいですが、勇者ユウスケ様は尋常じゃないです……。Lv99って有り得ないですよね……?」


 Lv99は有り得ないのか?

 むしろ、本来の力はLv999なのだがな……。


 まあ、女神マサーコ様も桁を間違えたと言っていた。

 まさに、桁違いの強さという奴なのかもしれない。


「それで、オレの要求はひとまず休戦。その後は和平交渉なのだが、受け入れる事は可能か?」


「おお、それはありがたい! ――と言いたいのですが、難しいと言わざるを得ませんね……」


 一瞬は喜色を浮かべるも、すぐにガックリと肩を落とす。

 どうもゼルからすると、望みはすれど、叶わない状況にあるらしい。


「人族と言っても一枚岩ではありません。人間以外の種族は叩き上なので、その提案を歓迎するでしょう。――しかし、人間の上層部は面子ばかり気にしますからね」


「ほう……?」


 何やら、ゼルの雰囲気が急に変わった。

 暗くてドロドロした感情が、溢れ出しているような……。


「貴族のコネで要職に就き、無能な者達が利権を貪る……。その上、負けず嫌いで、都合の悪い事からは平然と逃げる……」


「な、なるほど……。碌でもない奴等だな……」


 これはかなり重症だな。

 先程までは飾った姿だったらしく、今は目が完全に死んでいる。


「この砦の司令官は、何をしてると思います? お二人のレベルを聞いて、慌てて裏口から逃げたのですよ?」


「それで副指令のゼル殿が対応を……」


 責任を取らない責任者は、どこにでも居るものだな。

 以前のオレの職場でも、あのハゲにどれ程苦しめられたか……。


 ゼルの境遇には同情するが、今の状況はどうすべきだろうか?


「悪知恵ばかり働く人間どもめ! あんな奴らは滅びれば良いのに! そうすれば、どれ程の種族が救われるか……!」


「い、いや……。人間も悪い奴ばかりでは無いと思うぞ……?」


 メルトが慌ててフォローを入れる。

 オレをチラチラ見ているので、オレに対して気を使ったのだろう。


 そんな優しいメルトには、後でたっぷり可愛がってやらねばな。

 そんな事を考えていると、エミリアはオレに向かって真っすぐ告げる。


「副指令は毎日、胃薬を常飲しています。その辺りをご察し頂ければと」


「そ、そうか……。ゼル殿も苦労しているのだな……」


 オレは一体、何をしに来たのだったろうか?

 そんな疑問を抱きつつも、オレは静かに頷いておいた。

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