受付対応
オレはメルトを引き連れ、人族の砦へ赴いた。
本当は一人の予定だったが、メルトがどうしてもと言うのでな。
オレは漆黒のローブに赤いマント姿。
鉄の装備は城に置いてあり、大魔王スタイルのままである。
代わりにメルトは、マントとフードで姿を隠した状態である。
顔が知られてはいないそうだが、彼女も一応は魔王だからな。
オレは警戒する二人の門番に対し、受付依頼を要求する。
「オレは勇者の中野裕介だ。砦の責任者に取り次いで貰えないか?」
「え……? 勇者様、ですか……?」
門番は困った表情で、互いに見つめ合っていた。
そして、何やら小声で相談した後、一人が水晶玉を取り出した。
「申し訳ありません。本人確認の為、ステータスオーブへ触れて頂けますか?」
「ふむ、仕方ないな……」
オレの素顔を知る者も少ないと思われる。
身元確認を行うには、こういう手段が必要だとは理解出来た。
ただ、今のオレは勇者であると同時に大魔王でもある。
その事を懸念しつつも、オレは水晶玉に手を触れざるを得なかった。
「「……勇者&大魔王?」」
二人の門番は再び作戦会議を始める。
オレとメルトに背を向け、小声で何やら話始める。
何やら軽く揉めた様子だったが、一人が砦の中へ駆けて行った。
そして、もう一人がオレ達に頭を下げる。
「砦の責任者に報告へ向かわせました。しばらくお待ちください」
「まあ、仕方がないだろうな……」
末端の兵士では判断が付かないのだろう。
通すにしろ、追い返すにしろ、責任者の判断が必要な案件である。
オレが大人しく従うと、門番はほっとした表情を浮かべる。
そして、にこやかな表情でメルトへ水晶玉を差し出した。
「お連れの方も身元確認をお願い出来ますか?」
「「…………」」
よくよく考えれば当然の対応である。
メルトが砦に付いて来るなら、対応を考えておくべきだった。
メルトが魔王とバレるのは流石に不味いだろう。
かといって、身元確認の拒否は明らかに怪し過ぎる。
オレとメルトは互いに視線を交わす。
そして、なるようになれと、オレはメルトへ頷いて見せた。
「……では、触れるぞ?」
メルトは恐る恐る、水晶玉に手を振れる。
そして、表示された結果を門番が覗き込む。
祈る様に見つめるオレ達に、門番は戸惑った表情で首を傾げる。
「……大魔王の花嫁? しかも、レベルがやたら高いし……」
大魔王の花嫁だと?
確かに今のメルトを示す、最適の表現ではある。
だが、門番が疑問に感じた様に職業では無い気がする。
それに、その表現だとメルトの花嫁レベルが高い感じになる。
……いや、あながち間違っていないから問題ないか。
「あ、えっと……。上司に確認してくるので、そのままお待ちください!」
そう言い残すと、門番は砦の中へと消えて行った。
砦の門番が誰も居無くなったが、セキュリティ的に大丈夫なのか?
オレが心配して門を見つめると、メルトの呟きが耳に届いた。
「そっかー……。私もう、魔王じゃないのかー……」
何処か切なげで、何処か投げやりな口調であった。
メルトは瞳に涙を滲ませ、乾いた笑みを浮かべていた。
……よほど、魔王の役職に拘りがあったのだろうな。
オレはメルトを慰める為に、フードの上から頭を撫でてやった。




