うごめく陰謀(シェリル視点)
大魔王様とメルト様が城を発ち5日が経過した。
限られた時間を無駄にする事無く、私は精力的に活動を続けている。
城に常駐する配下の悪魔達も、その大半を外へと送り出した。
各地に潜ませた配下達を、全てこの魔王城へ呼び戻す為である。
「――シェリル様、失礼致します」
ここは私が利用する執務室。
ドアは開け放っているので、部下はノック無しに踏み込んで来た。
入って来たのは、メイド服を身に纏う悪魔。
古くから私に仕えている、忠実な部下の一人である。
「ディアブロ様が侵入者を捉えました。如何致しましょうか?」
今は城の守りが手薄な為、守りをディアブロに一任している。
そして、不測の事態に備えて、私の部下を監視に数人付けていた。
ディアブロは意思を持たず、言われた事を忠実にこなす人形だ。
だが、それ故に、注意せねば思わぬ行動を取る事も考えられた。
「貴女に任せましょう。情報を引き出したら、後は好きになさい」
私の答えに彼女はニイッと笑みを浮かべる。
恐らく捉えられた者は、悪魔の責め苦に泣き叫ぶ事になるだろう。
彼女は一礼して部屋を去ろうとする。
しかし、ふと気になって、私は彼女を引き止める。
「そういえば、ディアブロの調子はどう? 不可解な行動は取っていないかしら?」
「ディアブロ様の、調子ですか……?」
彼女は足を止めて、考える仕草を見せる。
そして、言い難そうに、私の質問へと尋ね返す。
「その、調子は良さそうなのですが……。何故、ディアブロ様は、ピコハンで戦うのですか?」
「……ピコハン?」
ピコハンとは一体なんのことだろう?
戦うと言っている以上、それは武器で良いのだろうか?
私が首を傾げていると、彼女はオロオロと説明を始める。
「その、叩くとピコッと音のなるハンマーです。叩かれた者は、ピヨピヨと気絶してまして……」
「ちょっと待ちなさい……。それは、冗談ではないのですよね?」
不可解な説明に、私は思わず尋ねてしまう。
忠実な部下である彼女が、冗談を言うはずが無いと知りながら。
案の定、彼女は泣きそうな顔で、必死に首を振っていた。
「じょ、冗談ではありません! 本当にオモチャみたいなハンマーで、侵入者を何人も捉えてるんですよ!」
「そ、そうですか……」
私はこめかみを抑えて考える。
その冗談としか思えない光景に、頭が痛むのを感じながら。
そして、すぐに考える事を放棄する。
きっと世の中には、考えても無駄な事だってあるはずだから。
「それはきっと、魔法的な武器なのでしょう。そう、我々の理解が及ばない様な……」
「な、なるほど! ピコハンは魔法的な武器なんですね!」
彼女は満足そうに、力強く頷いていた。
私の言葉で、納得がいったと言わんばかりに。
だが、その目を見ればわかる。
彼女も私同様に、考える事を放棄したのだと……。
「と、とにかく今は時間がありません。早々に城内の準備を終わらせなくては」
「はっ! くだらない質問、失礼しました! 私もすぐに持ち場へ戻ります!」
彼女は逃げる様に、慌てて部屋を駆けだして行く。
この無益な会話を、すぐさま打ち切る為に……。
「ふう……。とはいえ、時間が無いのは確かです……」
魔王国内に放った、全ての悪魔を受け入れる必要がある。
その上で、しっかりと装備を整えて貰わねばならない。
大魔王様が戻られるまで、時間は決して多いとはいえない。
それまでに、完璧に準備を終わらせねばならないのだ。
「くくっ……。悪魔の宴、存分に楽しんで頂きますよ……?」
大魔王様の驚く顔が脳裏に浮かぶ。
その想像にゾクゾクしながら、私は三徹目へ突入するのだった。
第三章が終了となります。
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