城内会議
オレ達は魔王城を発ち、三日後にリオン城へ辿り着いた。
そこは歴史を感じる石の城で、城下町も賑わいを見せている。
そして、この賑わいは立地のお陰なのだろう。
以前の進行ルートから、大きく外れた場所にあったのだからな。
「さて、大魔王の旦那。お勤めを果たす為にも、現状確認と行きやしょうか?」
「うむ、それでは説明を頼む」
場所は城内の会議室。
参加者はオレ、メルト、リオンに数名の獣人である。
獣人側の参加者は、大臣らしき物と騎士団長だったか?
軍司がフクロウで、騎士団長はトラや豹等の顔をしていた。
リオンが顎をしゃくると、軍司による説明が開始された。
「現在、我が軍は厳しい状況にありますな。十日前より、人族の攻撃が開始されている為ですな」
「十日前から? それまでは、攻撃が行われていなかったのか?」
オレの問い掛けに、軍司はコクリと頷いた。
そして、目を瞑って訥々《とつとつ》と言葉を紡ぐ。
「勇者様の出立後、十日程は様子見を……。その後、何度かの小競り合いを……。そして、十日前に痺れを切らした様で……」
「そのタイミングには意味があるのか?」
人族の行動が約十日単位で変化している。
それが、どういう状況の変化なのか気になったのだ。
すると、軍司はコクコクと小さく頷いて答える。
「初めの十日は、勇者様の消息を失った為……。何とか情報を得ようとしていましたな……。その後は、何度か小競り合いを……。こちらの戦力低下を、把握した様ですな……」
「ユウスケは不眠不休での強行軍だったろう? 後を付ける者達も、途中で着いて来れなくなったらしいからな」
メルトがオレに補足説明を加える。
その説明に、オレは軽く驚きを覚えた。
オレの後を付ける者達がいたのか。
そんな者達が居たとは気付かなかったがな……。
とはいえ、付いて来るのはまず不可能だったろう。
オレと違って、30日も寝ずの行動等は出来なかっただろうしな。
そして、オレの行方がわからなくなり、方針を変更した訳か。
主力を撃破したせいで、苦しい戦力はすぐにバレたのだろう……。
「ならば、今も戦闘は続いているのか? 戦況はどうなっているのだ?」
「第一防衛ラインは限界……。もって……数日という……ぐぅぐぅ……」
フクロウ軍司が会話の途中でイビキを書き出す。
まさかの唐突な寝落ちに、オレは驚いて目を見開く。
すると、周囲の団長達は、困った様子で肩を竦めていた。
「やはり昼間の活動は無理だったか……」
「まあ、まだ持った方なんじゃねぇの?」
フクロウの獣人だけに、夜行性だったという事か?
それにしても、それがわかって何故連れて来たのだ?
オレが戸惑っていると、リオンが苦笑交じりに説明する。
「いやまあ、軍の中で頭仕える奴が、余り居ないもんでして……」
「何だと……? 彼が唯一の、頭脳担当ということなのか……?」
余りの人材の薄さに、オレは思わず戦慄する。
よくそんな状況で、戦線を維持出来ていたものだな……。
オレは頭を抱えながらも、考えていた代案を披露する事にした。
「やはり、防衛線の回復が必要だろうな。それ無しに、和睦の交渉も難しかろう?」
「まあな。劣勢の相手に停戦を申し込まれ、それを飲む軍人は居ないだろうからな」
オレの質問にメルトが答える。
仮にも魔王だっただけあり、その辺りの理解は早い様だ。
オレはその回答に満足し、用意してあったプランを提案する。
「オレの持つアイテムに『巨神兵』と言う物がある。これを防衛に使ってみないか?」
道中に確認したのだが、このアイテムが99個存在していた。
生き物はボックスに入らなかったので、機械の兵隊ではと睨んでいる。
どの程度の戦力かは未知数だが、仮にも名に『神』と付くのだ。
使い物にならないと言う事は考えにくいだろう。
しかし、オレの提案に、メルトが渋い表情を浮かべていた。
「それは、何か不吉な予感がする……。私の本能が、使うべきでないと告げている……」
「オレも古い神話で聞いた記憶があるな……。文明を破壊する兵器とかだった気が……」
メルトに続いて、リオンも苦し気な声を出していた。
はっきりとした根拠は無いが、使って欲しくは無いのだろう。
野生の感という奴なのかもしれないな。
ならば、この案は無理に採用する事も無いだろう。
「なら、『超神水』というアイテムは? 『神酒ソーマ』と似た物と思うのだが」
「ふむ、飲料水か……。それならば、試に使ってみても良いかもしれないな……」
今度は特に反対意見も出なかった。
オレは満足げに頷き、リオンへと視線を向ける。
「では、早速前線の兵達に送ってくれ。念の為に、『神酒ソーマ』も送っておけ」
「へい、それじゃあすぐにでも。――おい、今夜中に戦場へ救援物資を送るぞ!」
リオンの呼び掛けに、周囲の団長達が慌てて動き出す。
城内の兵士達に、荷物運びや荷馬車の手配を伝えている様だった。
「それでは、後の事はよろしく頼む」
オレは会議室に『超神水』の樽を10本配置した。
それらをリオンに託し、メルトと共に部屋から出る。
――なお、リオンの話では、城内に浴場があるそうだ。
その為、オレはメルトとの混浴で、頭の中が一杯なのだ。
まずは腹ごしらえを行い、それから今夜はお楽しみなのである……。




