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祝福されし宴

 町の広場を中心に、パーティー会場が設置された。

 基本は立食形式で、焼かれた肉を食べる会である。


 そして、肉を焼くのは猫族の獣人。

 長靴をはいた猫や、ケットシーを思わせる二足歩行の猫である。


 彼等は焚火で直焼きにした肉をクルクルと回す。

 上手に焼けた肉を、会場のテーブルに配膳していた。


「肉球の手で、器用に焼くものだな……」


 そして、酒を管理しているのはゴリラの獣人だった。

 パワフルな彼等は、軽々と樽を抱えて運んでいる。


 そして、ゴリラの手伝いなのだろうか?

 サルの獣人も、食器をテーブルに並べていた。


「さて、間もなく準備は整いそうだな」


「用意っつっても簡単なもんですしな」


 会場の中心に用意された貴賓席にオレは座っている。

 その両隣には、メルトとリオンも座った状態であった。


 しかし、テーブルを挟んで反対側に席はない。

 どうもこの配置は、住人達が挨拶に来る感じじゃないか?


 そう思った直後、羊の獣人がオレの前へと進み出た。


「お初にお目に掛かります、大魔王様。私は町長のメリーと申します」


「ふむ、オレが大魔王の中野 裕介だ。この度は協力に感謝している」


 オレは頭を下げるメリーに、軽く挨拶を返す。

 どうやら、この町の町長は女性が務めているらしい。


 メリーは頭を上げると、ほっと胸を撫で下ろしていた。


「此度の婚姻には驚きました。ただ、大魔王様が温厚なお方で、ほっとしているのが正直な所です」


「なに、オレもこの運命には驚いている。ただし、これらは全て、女神マサーコ様のお導きだがな」


 ふっと笑みを漏らすオレに、メリーは目を丸くしていた。

 顔が羊で表情が読めないが、恐らくは驚いているのだろう。


「大魔王様は、新しき女神様の信奉者なのでしょうか?」


「新しき女神様? オレは女神マサーコ様に導かれ、この世界へやって来た異世界の人間だが?」


 オレの言葉に、メリーは身をのけ反らせて驚いている。

 ここまで、オーバーにリアクションしてくれると反応がわかりやすい。


 メリーははあっと息を吐き、オレへと説明してくれる。


「30年前までは、世界の管理者が男性神でした。しかし、神の力が落ちたのか、世界の加護が薄れ始めたのです。そんな時に世界中に神託が降り、管理者が女神に変わると知れ渡りました」


「ほう、その様な事が……」


 女神マサーコ様の名が知れ渡っていない理由はそれか?

 30年程度では、伝説という物が積みあがっていないのだろうか?


 いずれにしても、女神マサーコ様に関する新事実である。


「さて、お話を続けても良いのですが、皆が待っております。まずは、開始の挨拶をお願い致します」


「ふむ、挨拶か……?」


 言われて見れば、街の住人達が遠巻きながら集まっている。

 手にはコップと肉を持ち、オレ達の様子を伺っていた。


 人前での挨拶等は得意では無いのだがな……。

 とはいえ、これでは始まらぬので、やらない訳にいかないのだろう。


 オレはその場に立ち上がり、集まる住人達へ向かって声を張りあげる。


「オレの名前は、中野 裕介! 元は勇者であったが、メルトを妻とし、この地を統べる王となった!」


 既にその辺りは周知済みなのか、住民達に動揺は見られない。

 そして、思ったより好意的な視線で、オレの言葉に耳を傾けている。


「オレとメルトの婚姻を、全ての民が祝福してくれ! その為、肉を喰い、酒を飲み、楽しんでくれ!」


 静聴する住人達の態度に、オレは気分が良くなって行く。

 そして、今こそ女神マサーコ様の布教タイミングと確信する。


「この婚姻は女神マサーコ様の導きである! そして、皆が持つ酒は、女神マサーコ様の贈り物である!」


 ここで初めて、住人達に動揺が走った。

 皆が自分の持つコップを見つめ、その喉を鳴らしていた。


「この地に女神マサーコ様の祝福あれ! ――乾杯!」


「「「か、乾杯……!!!!」」」


 オレが酒を掲げると、皆も同じく酒を掲げる。

 そして、オレに倣って、皆がその酒に口を付ける。


 オレは喉を通る、その芳醇な香りに目を見開く。

 そして、水の様に爽やかで、五臓に染み込むその感覚に熱い息を吐く。


「こんなに旨い酒は初めてだ……」


「ああ、これが神酒ソーマか……」


 隣のメルトは目を閉じて、うっとりとした表情を浮かべている。

 恍惚とした表情を見せられ、オレの我慢も限界が近そうだ……。


 しかし、オレの理性が、辛うじて本能を抑え込む。

 周囲の様子がおかしい事に、ギリギリで気付く事が出来た。


「オ、オレの腕が、動くようになっている……」


「オ、オレも右目が、見える様になっている!」


「胸の痛みが……。私の病気が治ったの……?」


 何やら、酒の感想では無い言葉が多く聞こえる。

 それも、怪我や病気が治ったみたいな言葉が多い。


 更にはリオンの呟きも、オレの耳に入って来る。


「この感覚……。もしや、レベルが上がったのか……?」


 戸惑った様子のリオンの声。

 その声に、オレの方こそ戸惑ってしまう。


 この神酒ソーマは、そういう効果を持つのか?

 どうも、ただ旨いだけの酒では無さそうだが……。


 そして、内心で動揺するオレに、メリーが問い掛けて来た。


「だ、大魔王様……。この酒は……?」


「す、全ては女神マサーコ様の采配。その感謝を信仰とするのだ」


 メリーは膝を付き、酒を掲げて首を垂れる。

 神酒ソーマに対して、恭しく祈りを捧げている様だった。


 そして、メリーはその事実を知らしめる為に行動に移す。

 女神マサーコ様の祝福であると、町中に叫びながら練り歩き始めた。


 そして、この日、この町は……。



 ――女神マサーコ様の聖地へと生まれ変わるのだった。

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