獣人の町「ムツ・ロウ」
オレ達は日が暮れるより早い時間に街へ到着した。
そこは獣人達が生活する町「ムツ・ロウ」である。
リオンの城と魔王城の間に存在し、宿場町の色合いが強い。
その為、宿や商店もそれなりに充実しているそうである。
もっとも、馬車から見える景色は、かなり微妙な感じだが……。
「……なあ、メルト。この街は妙に寂れてないか?」
オレはメルトの髪をいじりながら問い掛ける。
その問いに、メルトは言い難そうに答えてくれた。
「勇者が来ると通達したからな……。大半の民は避難したのだろう……」
なるほど、これもオレの責任みたいだな。
立ち寄る事は無かったが、オレの襲撃を懸念しての事だろう。
とはいえ、この町にまったく住民が居ない訳では無い。
リオンに頭を下げる獣人達の姿がちらほら見えている。
……ただ、気になるのは、大半が怪我人という事だろうか?
「覚えていないのだが、彼等の怪我もオレによる物だろうか?」
「いや、それは違うぞ。この辺りは比較的安全な場所でな。戦争や狩りで怪我した者達は、この町で療養する事が多いのだ」
確かにこの地は、魔王城とリオン城の中間に位置する。
魔物の脅威や戦争被害が少なく、安静に過ごすのに向いていそうだ。
だが、それは平時の事である。
今のこの町の住人は、避難出来ずに取り残された者達なのである。
商店も空いておらず、食べる物にも事欠いている事だろう。
いや、見捨てられた彼等の心は、すれだけでは済むまい……。
「なあ、メルトよ。ヒュドラの肉は、三人で食べるには多過ぎると思わないか?」
「――なっ?! まさかそれは……。この町の住人達に振る舞うと言うつもりか?」
メルトが信じられない物を見る目を向ける。
その反応は、ヒュドラが高級肉という事で良いのだろうか?
オレが情けを掛ける事なら、それは少しばかり心外である。
オレとて、ブラックな境遇に置かれる者には同情するのだ。
「調理手を集める様に、リオンに頼まねばな。町人達には、オレとメルトの婚姻祝いと知らせれば良いだろう」
「ああ、名目等は何でも良い! そういう事なら、この私とて手伝わせて貰おう!」
キラキラと目を輝かせるメルトに、オレのリビドー値が上昇する。
しかし、オレが動くより早く、メルトは馬車を飛び出してしまう。
窓から様子を眺めると、メルトとリオンが話し合っていた。
リオンは満面の笑みを浮かべ、オレへと頭を下げていた。
「……仕方あるまい。我慢した分、今夜は加減しないからな?」
二人は早速動き回り、供回りの従者へと声を掛けていた。
少しばかり馬車も動かなさそうだし、オレは時間を持て余す事になる。
そして、今夜のパーティーについて、ぼんやりと想像を膨らませる。
「オレとメルトの婚姻祝いだ。肉だけと言うのは流石にな……」
もう少し華やかな感じに振る舞いたいものである。
パーティーを彩る物がないか、アイテムリストを確認してみる。
「……お? パーティーに酒は必須だろう。数も十分にありそうだな」
オレは見つけたアイテムに満足する。
これならば、オレ達の婚姻祝いに相応しい品と言えるだろう。
> 神酒ソーマ(100樽セット)× 99個
「折角なので、女神マサーコ様からの贈り物としておくとしよう」
女神マサーコ様の名は、何故だから知られていない。
出来るタイミングで、少しでも普及して恩返しをせねばなるまい。
オレは自らの計画に満足し、腕を組んで一人頷く。
そして、更なる普及活動について、計画を練る続けるのであった。




