勇者 VS. 魔王
魔王城の周囲は荒野と化していた。
これは、代々の戦争で激しい戦いが続いた為だそうだ。
人族と魔族の戦いが最も繰り返されて来た場所。
それが、魔王領の中央に存在する魔王城なのである。
そんな魔王城へ、オレは堂々と正面から乗り込む。
オレには作戦も無く、ただ力押ししか能がないからだ。
途中に巨体の牛や馬の顔をした魔族等も襲い掛かって来た。
だが、それらも魔法の一撃で全て吹き飛ばしている。
ただ一人で、順調に城内を突き進む……。
すると、魔王城の最上階で、奴が待ち構えていた。
「貴様が勇者か。まさか、本当に単身で辿り着くとは……」
最上階の最奥の部屋に、漆黒の鎧を着こんだ存在を見つけた。
黄金で飾られた玉座に座る事から、恐らくあいつが魔王だろう。
顔はフルフェイスの兜で覆われていて見る事が出来ない。
声も兜でくぐもっていて、非常に聞き取りずらい。
しかし、玉座から立ち上がり、こちらへと歩む足取り。
赤いマントをなびかせ進む姿は、王者の風格が漂っていた。
「お前が魔王で間違いなさそうだな」
「その通り。我こそが、魔王メルト・ドラグニルである」
魔王は腰の剣を引き抜き構える。
その剣は真っ黒な刀身で、周囲に嫌なオーラを漂わせている。
その剣も、その鎧も、悪魔を連想させる禍々しい姿だった。
本来のオレならば、恐ろしく感じる存在なんだろう……。
「最早、問答は無用……。勇者よ! ここで決着を付ける!」
魔王はその場を掛け、オレに向かって剣を振り下ろす。
その斬撃は、容赦なくオレの頭に向かっていた。
しかし、オレはその漆黒の刃を、手刀で叩き折った。
「なあっ……?! 我が魔王剣が……!」
「悪いな。これ以上、支給品を壊したくないんだ」
既にオレは、支給品の鉄の剣を壊してしまっている。
更に鉄の兜まで壊しては、どれ程の賠償を求められるか不明だ……。
オレは城を発つ時に、浮かれていた事を後悔している。
業務終了後の支給品について、契約内容を確認しなかったからだ……。
暗い気持ちでいるオレから、魔王は慌てて距離を取る。
そして、右手を掲げてオレへと叫ぶ。
「ならば、我が最高の魔法で、貴様を葬ってくれる! ――『ギガ・フレア』!」
一抱え程もある、大きなな炎が生み出される。
熱量が上がって青い炎である為、鉄の鎧が溶かされる可能性がある。
――それは、非常に不味い。
内心で焦るオレは、一つの魔法を選択する。
旅の中で習得した、この場に最適なその魔法を……。
「その攻撃を受ける訳にはいかない。――『マジック・ミラー』」
オレが唱えた魔法により、オレの眼前に魔法の鏡が現れる。
この魔法は、一度だけ相手の魔法を反射させる効果がある。
魔王が放った青い火球は、魔王自身へと返って行った。
「ぐおぉぉぉ……! ば、馬鹿なぁぁぁ……!」
魔王は自身の魔法で吹き飛ばされる。
そして、その装備する兜や鎧もかなり溶けてしまった。
魔王は片膝を付き、何とか体を起こしていた。
そして、オレに向かって悔しそうに宣言する。
「古の魔法まで使いこなすか……。認めるとしよう。この勝負は、私の負けだ……」
「そうか。ならば、魔王軍は投降するんだな?」
オレのミッションは戦争の終結。
相手が敗戦を認めねば、全滅させるまで続けねばならない。
だからこそ、魔王軍が投降してくれると非常に助かる。
戦後処理は、王様に丸投げして良いと言われているからだ。
――だが、そこで魔王が思わぬ行動に出る。
「魔王軍は負けを認めよう。その上で、勇者に頼みがある!」
魔王はその兜を脱ぎ捨て、額を地面に押し付けた。
驚いたことに、魔王がオレに土下座をして来たのだ。
そして、長い黒髪を振り乱し、オレに向かって叫ぶ続けた。
「抵抗せず、この首を差し出す! それでどうか、同胞達の命だけは助けて欲しい!」
自らの命を差し出し、オレへと願いを告げる魔王。
想定外の事態に、オレの頭は真っ白になってしまう……。