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残虐のエリザベート

 大魔王会議はどこまでも続く。

 もはやシェリルも、多少の事では動じなくなって来た。


「人族とは娯楽を介して関係の改善を図る。それは良いとして、目下の懸念事項が御座います」


「ほう、懸念事項か……?」


 ラヴィとの会話は楽しかったが、そういう話ばかりでは無さそうだ。

 真面目な表情のシェリルに、オレも気を引き締めて耳を傾ける。


「大魔王様が人族の城を出て32日。人族の軍隊も動向を探っているのです。我が軍の戦力が落ちている事は、そろそろ気付かれているでしょう」


「ああ、オレが魔王軍を蹴散らした為か……」


 その辺りは事前にシェリルから聞いている。

 最も戦力を固めた場所を、オレがぶち抜いてしまったと。


 そして、その被害が最も多かったのが獣人族であるとも。

 オレは獣人族の王リオンに視線を向ける。


「ああ、気になされる必要は御座いません。戦場で散るのは、戦士の定めで御座います」


「そう言ってくれると助かる」


 リオンは気にした様子を見せず、豪快な笑みを浮かべる。

 内心では別だろうが、それを表に出さない程は大人なのだろう。


 ……宝剣で許してくれたか、後でシェリルに探らせておこう。


「とはいえ、戦力の低下は由々しき事態。早々に対策を……」


「――なら、人族を殺せば良い。死体は私が再利用するから」


 シェリルの言葉を遮ったのは、エリザベートだった。

 彼女は冷めた視線をオレに向け、ニイッとその牙をオレに見せた。


「強者ならば我が眷属に。そうで無い者はゾンビとして利用する。リオンの穴埋めは、私がしてあげる」


「待て、エリザベート。それは大魔王様の意向ではない」


 上から視線で告げたエリザベートに、リオンが厳しい視線を向ける。

 リオンも今の態度には、多少イラっと来たのかもしれない。


 しかし、エリザベートは鼻で笑う。

 そして、オレに対して不敵な笑みを向けた。


「そもそも、大魔王様が信用出来ない。彼は人族なのよ? 本当に魔王に相応しいと言えるのかしら?」


「控えなさい、エリザベート。大魔王様を怒らせるべきではないわ」


 青い顔で忠告するシェリル。

 しかし、その言葉すら無視し、更にはメルトに視線を向ける。


「そもそも、魔王様は恥ずかしく無いのかしら? 人間に尻尾を振って、その様な地位に……」


「――クソガキが。そろそろ、その口を閉じろ」


 オレが立ち上がると、エリザベートがビクリと震えた。

 しかし、その目は未だに、オレとメルトを侮っていた。


 メルトはオレの腕を掴み、青い顔で首を振っていた。

 しかし、メルトを愚弄した者には、相応の報いが必要だろう。


「オレが魔王に相応しいかだと? ならば、魔王の力を見せてやろう」


 オレはウインドウを操作する。

 そして、新たに増えた力から、相応しそうなスキルを選ぶ。


 > 魔王の威光


 そのスキルにより、オレの背後が怪し気に輝きだした。

 見ている者を不安にさせる、不規則な暗い点滅である。


 その効果は、使ってすぐ理解する事になる。

 オレ以外の全員が、圧し潰される様に床に倒れたからである。


「こ、これは……! まさか、三代目様が使ったと言う……!」


 シェリルが地を這いながら、狼狽えた叫びを上げる。

 それに続いて、メルトも怒りの眼差しでオレに向かって叫ぶ。


「最悪だ……! ユウスケ、そのスキルを今すぐ止めろ……!」


 メルトに言われ、オレは慌ててスキルを解除する。

 まさか、メルトまで巻き込む、無差別な効果だったとは……。


 そして、スキルを解除するとメルトが駆けだした。

 驚いたことに、彼女は焦った顔でエリザベートの元へ掛け付けた。


「い、いやぁぁぁっ! 殺さないで! 殺さないで! 殺さないで!」


「落ち着け、エリザベート! ユウスケは、三代目魔王とは別人だ!」


 メルトの声が聞こえないのか、頭を振り乱すエリザベート。

 何とか落ち着けようと、メルトはエリザベートを抱きしめていた。


 その光景に呆然としていると、リオンがオレに教えてくれた。


「エリザベートの父親ブラドは、あのスキルを使って殺されました……」


「なんだと……?」


 偶々選んだスキルで、オレは地雷を踏み抜いたらしい。

 まさか、エリザベートのトラウマを抉ってしまうとは……。


 気まずい空気を感じるオレに、ラヴィが近寄り問い掛けて来た。


「もしかして、大魔王様は歴代魔王のスキルを他にも?」


「歴代魔王のかは知らんが、それらしいスキルは使える」


 正直、メルトの使った『ギガ・フレア』以外はわからない。

 魔王が何代も世代交代している事すら知らなかった訳だしな。


 そんなオレに、ラヴィは真剣な眼差しでオレに問う。


「かつて夢魔族からも魔王が生まれたの。その魔王が使った、ハッピー・ナイトメアって使えないかしら?」


「ふむ、確かに使えはするが……」


 一体何なのだ、このスキルの名前は……。

 どう考えても、魔王が使うスキルとは思えないのだが?


 しかし、ラヴィは使って欲しそうにしている。

 ならば、最悪はラヴィに責任を取らせるとするか……。


 オレはウインドウを操作して、エリザベートへスキルを使う。


 > ハッピー・ナイトメア


「殺さな……って、あれ? わたし、なにしてたんだっけ……?」


「お、おい、エリザベート? どうしたのだ? 大丈夫なのか?」


 エリザベートは目の焦点がおかしくなり、トロンとした表情になる。

 もしやこれは、白昼夢でも見ている状態にでもなったのか?


 そんなオレの疑問に対し、ラヴィはクスリと笑って教えてくれた。


「その人の最も幸せな過去と出会えるスキルよ。……ただ、夢から覚めたらって思うと、残酷なスキルでもあるんだけどね」


「一時的にエリザベートを落ち着ける為だ。仕方あるまい……」


 幸せそうに微笑み、ふわふわと笑うエリザベート。

 メルトがどうして良いかわからず、オロオロと慌てていた。


 ただ、とりあえず混乱を収める事は出来た。

 オレは玉座に座りなおし、ふうっと息を吐きだした。


「――あ、パパ! いつの間に帰ったの!」


 ぱっと表情を輝かせ、エリザベートが掛けて来る。

 そして、あろうことか、オレの膝に飛び乗って来た。


「パパ! 私の大好きなパパ! 世界で一番愛してる!」


「おい、落ち着け――むぐ」


 エリザベートの手で頬を挟まれ、オレは唇を塞がれた。

 彼女はちゅっちゅと、バードキスを繰り返す。


「エリーが大人になったら、パパのお嫁さんにしてね!」


 ……ちょっと待ってくれ。

 エリザベートは幸せな過去と再会してるんだよな?


 これは過去にあったって出来事って事で良いんだな?

 エリザベートのパパは、娘に何をさせてたんだ?


「…………」


 オレは再び気まずくなり、周囲の様子を確かめてみた。

 メルトは口をパクパクさせ、完全に思考停止状態となっていた。


 そして、残りの皆はオレから背を向けていた。

 どうやら、何も見なかった事にしてくれるらしい……。

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