妖艶のラビアン
大魔王会議は更に続く。
シェリルはにこやかに話を進行させていた。
「それで話を戻しますと、戦争終結の方法です。大魔王様のお考えは如何でしょうか?」
「人族と魔族が手を取り合うのが理想だろうな。女神マサーコ様のお考えもそのはずだ」
オレの言葉に、メルトが最も反応を示した。
目をキラキラと輝かせ、敬意の感じられる視線であった。
グッと来たオレは、椅子から立ち上がろうと前屈みになる。
しかし、シェリルが慌てた声で、オレに向かって問い掛けて来た。
「そ、それでは具体的に、どの様に手を取り合いましょう! 政治的駆け引きに武力行使、経済政策等も御座いますが!」
「ふむ、具体的な手段か……」
問われた以上は、このまま中座とは行かないだろう。
本音でいえば、今すぐメルトと寝室へ向かいたい所だが……。
とはいえ、この辺りはオレの得意分野ではない。
今の魔王軍の状況すら、はっきり理解していないのだから。
「ねえ、その事について、私から提案しても良いかしら?」
「ラヴィか……。それで、提案とはどの様なものだ?」
困っていたので、渡りに船と言える提案だ。
オレは前のめりになって、ラヴィの提案に耳を傾ける。
そして、ラヴィはオレに向かって嬉しそうに微笑む。
何がそんなに嬉しいのかは不明だが……。
「西方領地への借金が完済出来るわけよね? なら、うちの観光資源に投資して頂けないかしら?」
「観光資源に投資……?」
西方領地への借金という言葉も気になる所だ。
しかし、それは後でシェリルに確認すれば良いだろう。
今はラヴィの提案に耳を傾ける時だからな。
「ええ、私の領地って夢魔族が住む土地なの。それでもって、人間達との非武装中立地帯でもあるのよ」
非武装中立地帯は、国家間で戦闘を行わない様に協定を結んだ場所の事だ。
そんな場所が存在する事に、オレは内心で驚いていた。
「人族との交易とか、良い夢を見せる宿なんかが収入源なの。けど、他にも収入源を増やしたいのよね」
良い夢を見せる宿とはどういう事だ?
いや、夢魔族という事は、もしかしたら……。
「――サキュバスやインキュバスが従業員か?」
「あらぁ! うちのベイビー達をご存じなの?」
どうやら、オレの予想は正解だったらしい。
ラヴィは右手を頬に添え、嬉しそうに微笑んでいた。
そちら方面に疎いオレでも流石に知っている。
淫魔と呼ばれ、エロい夢を見せる悪魔の存在を。
ただ、悪魔族とは別種族みたいだし、悪魔とは違うのだろうが。
「そう、気持ち良い夢は人気サービスなの。けど、行商人しか領地に来なくて、お客さんが増えないのよね……」
「なるほど。旅行客が来る様にして、利用客と収入を増やしたいという事か……」
人族がラヴィの領地に遊びに来るのは有りだな。
そうすれば、娯楽方面から魔族への親近感を増していける。
魔族側からしても、客として人族に接すれば関係も変わる。
楽しかったと言われれば、人族を好きになる可能性がある。
「……金を出す事は出来る。だが、具体的には何を始める気だ?」
「そこはまだ決まってないわ。状況が変わったのって二日前だし」
ラヴィは困ったように首を振っている。
彼女の言う通り、人族と手を取る方針も先程決まった位だしな。
とはいえ、観光地として人を集めるか……。
人が集まると言えば娯楽施設――デートスポットと言う事だな。
「メルトと行くなら温泉宿。それに、カジノ辺りも面白そうか?」
「なになに? すっごく、面白そうな予感がするんですけど……」
ラヴィが興奮した様子で、オレににじり寄っている。
圧が凄いが、オレは一旦無視して妄想に耽る。
「夫婦で入れる個室温泉は必須だな。それに、その地で取れる旬の食材での料理。気分転換がしたくなったら、カジノでギャンブルは楽しそうだ」
「良いわね! 若いカップルにも受けると思うわ! でも、それだと富裕層向けになるかしら……?」
確かに金を使った豪遊も時には良いだろう。
しかし、普段から使うなら、もう少し気楽に使いたいな。
ならば、もう少し一般的なサービスが必要か?
「ショッピングとして、服やアクセサリーを買える店……。ああ、新作のファッションショーも見てみたいな」
「なにそれ、素敵! うちのベイビー達は容姿に優れるし、絶対にそのファッションショーは人気になるわ!」
ラビィも自身の妄想に耽っているのか?
ファッションショーなら、メルト一択だろうに……。
後はカジノと言えば、あの服はあるのだろうか……?
「バニーガールはわかるか? 水着姿に黒の網タイツとウサミミの飾りだ。あの見せ過ぎないデザインは秀逸だと思うのだが」
「大魔王様、本当にわかってらっしゃる。このラビアン=ローズ、大魔王様に一生付いて行きます」
なにやらラビィから、熱い視線を向けられている。
忠誠心としては良いのだが、別の意味なら勘弁して欲しい。
そして、オレはふと気になってメルトに視線を向ける。
何故かメルトは、オレに氷の様な冷たい視線を向けていた。




