剛腕のリオン
少々の騒ぎはあったが、場は再び落ち着きを取り戻した。
そして、シェリルが元のテンションで進行を続ける。
「次にお話したいのが人族との戦争です。最終目標と、その手段の確認となります」
「最終目標は戦争の終結だな。しかし、その手段とはどういう意味だ?」
オレの返答に、三者はそれぞれに眉を寄せる。
戦争の終結というのが、何やら納得いかない様子だった。
そして、シェリルは説明する様に、丁寧に言葉を並べる。
「戦争を終わらせるにも、様々な手段が御座います。戦争の勝利により、相手の利権を奪う。相手を隷属させる。戦争を続けずに、停戦条約を結ぶ等です」
「ふむ、それもそうだな……」
将来的に戦争を終わらせるが、具体的手段を考えていなかった。
言われる通り、戦争の終わらせ方にも色々と考えられる。
しかし、納得するオレに対し、シェリルは怪しげに微笑んだ。
「しかし、大魔王様の存在で、我々はもう一つの札を手にした。――そう、人族を滅ぼすと言う選択肢です」
「「「なっ……?!」」」
その言葉には、三人だけでなく、メルトも驚いていた。
当然のことながら、オレも内心では驚いている。
そんな事をする必要があるのか理解が出来ない。
そして、何よりも女神マサーコ様の望みとも思えない。
疑問を口にしようとするが、それより早くリオンが動いた。
「シェリルよ、正気なのか? 人族がどれだけ存在するか、お主も知っていよう」
「そうだぞ、シェリル。ユウスケがいくら狂暴でも、それは流石にしないはずだ」
リオンに続いてメルトも賛同の言葉を口にする。
だが、オレが狂暴と言う部分は、流石にどうかと思うのだが……。
しかし、反論するより、リオンの反応が気掛かりだった。
口をポカンと開いて、メルトの事を見つめていたからだ。
その様子に気付いたシェリルは、オレに向かって質問を投げ掛ける。
「仮に、人族の王からの指示で、メルト様が誘拐されたらどうなされますか?」
「今すぐメルトを取り戻して、王の住む城を滅ぼしてくる」
メルトの誘拐など、鬼畜の所業としか思えない。
そんな奴らの住む国など、滅んでしまえば良いだろう。
オレが当然の回答をすると、場がシーンと静まり返った。
何故かメルトは、真っ青な顔でブルブルと震えている。
「……この様に、大魔王様が本気になれば可能なのです。そして、人族が愚かな手段を取っても実現するでしょう。まずはこの方法を、有りか無しかで議論が必要でしょう」
「ユウスケ、絶対にやるなよ! 何があっても、人族を滅ぼすのは無しだからな!」
メルトがオレの腕にしがみ付き、涙目で訴えかけていた。
何やら、メルトがオレの事を誤解している気がするな……。
オレはメルトを安心させる為、ふっと笑顔を彼女に向ける。
「心配は不要だ。何があっても、メルトの事は必ず守る」
「そうじゃない! なぜ、私の気持ちは通じないんだ!」
オレの肩を掴み、ガクガクと揺さぶるメルト。
オレはそのじゃれ合いを愛らしく感じ、彼女の頭をそっと撫でた。
すると、それまで黙っていたリオンが、オレに向かって発言する。
「大魔王の旦那よ。あんたの自信は大したもんだ。味方としちゃ、頼もしい限りでもある」
「ふむ、そうか……?」
リオンの発言はオレを褒めている様にも聞こえる。
しかし、そうでな事くらいは、流石のオレでもわかる。
ピリリとした空気を纏い、リオンは宝剣をオレに向ける。
「だが、その実力は本物なのか? 一度、オレ達にその実力を、見せてはくれねえか?」
「オレの実力を? それは、オレの本気の力か?」
オレの回答に、リオンは二っと笑みを浮かべる。
そして、嬉しそうにオレへと答える。
「当然、本気の力だ。オレの願いを聞き入れてくれるか?」
「ふむ、まあ良いだろう……」
オレは玉座から立ち上がる。
そして、右手の指輪にそっと触れる。
――しかし、オレの腕をメルトが掴んだ。
「二人とも止めておけ。戦う意味が無い」
「おいおい、メルトの嬢ちゃんよ。それは、どういう意味だ?」
リオンは殺気立った口調でメルトへ問う。
メルトへの対応について、オレは少しむっとした。
しかし、当のメルトが気にしていなかった。
涼しい表情で、リオンに対して事実を述べた。
「今のユウスケは勇者Lv99。しかし、指輪を外すとLv999となる。まず、戦いにならんだろうな」
「は……? Lv999だと……?」
メルトの言葉に、リオンが固まってしまう。
しかし、少しすると首を振って息を吐く。
「つまらん嘘はよせ。冗談なら時と場合を……」
「この私が、嘘や冗談を口にすると思うのか?」
リオンの言葉をぶった切るメルト。
その口調は、いつもの凛々しい時の物だった。
オレはメルトの表情にぐっと来る。
色々と我慢していると、リオンはふうっと息を吐いた。
「シェリルの言葉なら信じなかったが……。メルトの嬢ちゃんが、嘘を付くはずがねえな」
リオンは剣を下ろして、その場で膝を付く。
そして、オレに頭を下げて、謝罪の言葉を口にした。
「疑って申し訳御座いませんでした。このリオン=ライオネル、大魔王様に絶対の忠誠を誓います」
「ああ、気にするな。必要になれば、いつでもオレの力を振るおう」
オレの言葉を受けて、リオンはホッとした表情で顔を上げる。
そして、オレに対して人懐っこい笑みを向けていた。
どうやら、リオンはオレを信用してくれるらしい。
これならば、彼とは上手く関係を築いていけそうである。
なお、気になってシェリルの様子も伺ってみた。
リオンの言葉を聞いた彼女は、涼しい表情で明後日の方向に視線を向けていた。




