表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/131

望み

 ブロンシュ様は真っ直ぐにオレを見つめる。

 そして、腕を組みながら、オレへと語りだす。


「この世界の現状は把握した。人間達は、しばしワシが手を貸すとしよう」


 恐らく、記録ログを追うと同時に、下界の様子も見ていたのだろう。

 人間の街が崩壊した事を、ブロンシュ様は既に把握されているはず。


 そして、ブロンシュ様は非常に心優しい神である。

 困っている人々を、放っておく事が無いと断言できる。


 この御方は人間にとって、本物の救いの神なのだ。

 人間の後処理は、全てお任せして問題無いだろう。


 そう考えるオレに、ブロンシュ様はくすりと笑った。


「それで、魔族側をどうするかじゃな。ユウスケよ、お主はどうしたい?」


「――それは……」


 ブロンシュ様の瞳を見て、オレは即座に理解した。

 魔王国の状況を把握し、その上でオレの判断に委ねる気なのだと。


 今のオレは、ブロンシュ様と同格の権限を持つ神である。

 オレが望めば、魔王国側の管理を任せるつもりがあるのだろう。


 そして、それこそルシフェルだった頃のオレの望み。

 今度こそ争いの無い国を目指す為、数多の世界を巡って来たのだ。


 オレの母さん、『黒の竜神』ノワール様の望みでもある。

 その望みを叶える為にも、オレは修行を積んで戻って来たのだ。


「……そのはず、だったのですがね」


 オレはメルトとシェリルに視線を向ける。

 二人は状況に付いて行けず、じっとオレを見つめるだけだった。


 ただ、オレとブロンシュ様の間に流れる空気には気付いている。

 オレが重大な決断を迫られていると、察してはいる様子だった。


 何も言わずに見守る二人に、オレはふっと笑みを向ける。

 そして、ブロンシュ様に向けて、オレの望みを口にする。


「まだ、やり残した事があります。今一度、人として生きる事を許して下さい」


 そう、魔王国にはオレの帰りを待つ者達がいる。

 大魔王としてのオレを必要とする者達が沢山いるのだ。


 息子のソリッドだって生まれたばかり。

 父親らしいことをせずに、無責任に投げ出したくはない。


 更に言えば、二人との結婚式だって挙げれていないのだ。

 神として生きるには、オレはまだまだ未練が多すぎるらしい。


 そんな煩悩まみれのオレに、ブロンシュ様はかかっと笑う。


「うむ、許そう! 今度は未練が残らぬ様に、しっかりとその生を全うするが良い!」


 驚く事も無く、即座に許可を出すブロンシュ様。

 オレのこの答えすら、この御方にはお見通しだったのだろう。


 満足そうに頷くと、隣に座る母さんと腕を絡ませる。


「その間に、ワシは妹のリハビリを終えておこう。勿論、人間の支援も行いながらな」


「ふぇ? ……って、もしかして、貴女は私のお姉ちゃんだったのっ⁈」


 何やら母さんは、衝撃を受けた表情を浮かべていた。

 ずっとそう言っていたはずなのだが、今まで理解して無かったらしい……。


 ま、まあ、その辺りはブロンシュ様に任せておけば良いだろう。

 生まれてずっとの付き合いなので、きっと上手くやってくれるはずだ。


 オレが苦笑を浮かべていると、ブロンシュ様も苦笑交じりに告げる。


「それと、二人の修行もじゃな。時々、こちらに呼ぶので、そのつもりでいる様に」


「は、はいっ! 不束ものですが、どうぞ宜しくお願い致します!」


 慌てて頭を下げるシェリル。

 そんな彼女に、ブロンシュ様は優しく頷いてみせた。


 しかし、メルトは眉を寄せて、首を捻っていた。

 オレへと視線を向けると、不思議そうにオレへと尋ねてくる。


「何の話をしているのだ? 私は花嫁修業でもさせられるのか?」


「……まあ、似た様なものだ。詳しくは後でオレから説明しよう」


 そういえば、ブロンシュ様の説明をまったく聞いて無かったな。

 今の自分が、神の力を宿している事すら理解していないのだろう。


 申し訳無いが、メルトの事もブロンシュ様にお任せしよう。

 母さんに似たタイプなので、きっと上手くやってくれるはず……。


 そして、オレの敬愛するブロンシュ様は、かかっと笑って立ち上がった。


「ひとまずは、ここまでとしよう。お主らを待つ者もおる。ワシの助けを必要とする者もおるしな」


 ブロンシュ様はパチンと指を鳴らす。

 すると、オレの右手のリングが輝きだした。


 それと同時に感じる、力が制限された感覚。

 オレの体が、人間の時と同じ状態へと戻されたみたいだ。


「今度は死ぬまで、指輪を外せぬ様にしてある。人として生きるなら、Lv99だけで十分であろう」


「はい、ご配慮ありがとう御座います。むしろ、次の人生では、戦う機会も無いと思いますしね」


 ブロンシュ様が見守ってくれているのだ。

 人の力で立ち向かえない脅威が訪れるはずもない。


 Lv999等と言う、人外の力は必要とされる事も無い。

 これからの世界は、そういう世界へ変わって行くのだから。


「では、しばしの別れじゃな。この世界に生まれた幸福を、しかと噛み締めてくるが良い」


 その言葉と同時に、オレ達の体が光に包まれる。

 ゆっくりと時間を掛けて、元の世界へと転移を開始した。


 優しく見守るブロンシュ様と、寂しそうな瞳の母さん。

 オレはそんな二人の親に対し、ゆっくりと頭を下げた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ